【ヒロアカ】血まみれヒーローと黒の少年【原作沿い男主】
第7章 アザミの家
「まあそうだろうな。普通はそういう反応をする。そんでこう思うだろう。「まるで中身が入れ替わってるみたいだ」」
びく、と肩が跳ねる。確かにそうだと思ってしまった自分がいて、思わず反応してしまったからだ。
成人男性ほどの図体なのに、中身は幼い少年のような太陽。外見は幼い少年なのに、中身は大人のような渚。この二人における「中身が入れ替わっている」という推察はあまりにもしっくりくる。いや、でも、まさか。
硬直している出久を見て、渚はまた顔をゆがめるように笑った。可愛らしい少年の顔に、歴戦の兵士が浮かべるような複雑な表情が刻まれる。
「まあそんなことはどうでもいい。出久。おまえ、翔を尾けてたらしいじゃねえか」
名前を呼ばれ、出久はまた肩を跳ねさせた。小鳥のような愛らしい声のはずなのに、そこには威厳、風格とも言うべき抗いがたい雰囲気を感じる。
「おまえからしたら相当危険な得体の知れねえ輩に見えてたはずだがな。やたら首突っ込むところはまさしくヒーローの素質ありってところか。でもよ、ひとつ忠告しておくぜ」
渚の小さな指が出久を指さした。まるで検察官に尋問でもされるような心地になり、出久は生唾を飲み下す。
「今からおまえが知ろうとしてることは、一生知らなくても良い、いや、知らない方がいくらか幸せだろうってくらいのとんでもなく胸糞の悪ぃ話だぜ。これを聞いた後、おまえが翔をどんな風に思うかなんて想像に難くねぇ。どうせオールマイトにも余計なことするなって言い含められてんだろ。その忠告を聞かなかったことを、おまえは必ず後悔することになる」
渚の言葉は、岩の間を流れる湧き水のように出久の心の中に染み入ってきた。出久自身も薄々感づいていることだったからかも知れない。
翔が何者なのか。この孤児院がどんな場所なのか。それは聞いて気持ちの良い話ではけしてない。ここまでの道中の出来事や出会った人たちの会話で、それは十分に察しがついている。渚は――このとても年相応とは思えない少年は、その事実を改めて出久に突きつけているのだ。「必ず後悔する」という確信を帯びた言葉を、ナイフのように冷たく出久の首筋に押し当てて覚悟を問うている。今ならまだ引き返せる、と警告している。