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【ヒロアカ】血まみれヒーローと黒の少年【原作沿い男主】

第7章 アザミの家




「それでも知るか? 知るなら、おまえがそこまでして真実を知りたい理由は何だ」


「ぼく、は……」


 発した声は自分でも驚くほど情けなく掠れていた。飲み込んだ唾で喉を潤し、再び口を開くも、言うべき言葉が見つからないことに気づいて愕然とする。翔を追いかけると決めたときはあんなに頭が澄み渡って、迷いもためらいもまったくなかったのに。


 出久は今までにもよくこういう突発的な行動を起こして周りを巻き込んだことがある。ヘドロ事件。雄英の入学試験。初めてのヒーロー基礎学の授業。例を挙げればきりがない。けれどいつも起こした行動の浅はかさや危険さを指摘され叱られるだけで、ここまで真剣に、まっすぐに、「なぜ」したのかという理由を問われたことはなかったのだ。


(どうして僕は、一ノ瀬くんのことを知りたいんだ?)


 後先のことを考えるなら、オールマイトの指示に従って翔と距離を置くのが最善だった。翔に真意を聞くにしても、オールマイトから許可をもらってからでも遅くはなかったはずだ。周りの状況を考えずに自分一人で煮詰まりすぎて、明らかに判断を誤った。後先を考えず、他人に迷惑をかけ、実際に危険な目にもあったこの選択がどうして正しいと言えるだろう。

 人を救おうとして反射的に飛び出して、次の瞬間には「何で」と自分の行動が信じられずに戸惑う、何度も経験したあの感覚が今度はゆっくりと引き延ばされて、じわじわと末端から身体を浸食していくようだった。


 でも。と、出久は冷たくなった指先を強く握り込む。


 でも。それでも、自分はやって来たのだ。後先も危険も面倒も迷惑も、何ひとつ省みず、こんなところまで。その理由を、感覚でなく言葉で伝えなくてはならない。翔の家族だというこの少年少女たちに納得できるように。

 今回ばかりは「考えるより先に身体が動いていた」では済まされない。それは彼らにあまりに失礼だし――何より、多分、今はまだ引き返せるところにいるのだ。もし躊躇っているなら、後悔しているなら、このまま帰れとこの人は言っている。何も知らずに引き返せと。これはきっと彼らなりの優しさなのだ、と出久は思った。


(だけど、)


 今更帰るなどという選択肢は、出久の中に最初から用意されてはいなかった。


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