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【ヒロアカ】血まみれヒーローと黒の少年【原作沿い男主】

第7章 アザミの家




 出久が目を白黒させていると、潤と明が少年に気づき声をかけた。


「あ、渚兄出てきた」
「渚。今回は出てこないんじゃなかったのか」


 渚と呼ばれたその少年は、ちらりと二人のいる方を一瞥すると、口の端で笑みながらけだるそうに首を曲げてみせた。それは普通それなりに歳を食った人間がする動作なのに、この少年はそういう仕草すら妙に様になっている。まるであの某アニメの名探偵のようだ。


「気が変わった。ひと通り紹介は終わったんだろ? ちょっと挨拶しとこうと思ってよ」


 少年は淀みなくそう言うと、視線を上向けて出久と目を合わせた。鮮やかな緑色の瞳は大きな宝石のようにつぶらだが、その奥に宿る光は酸いも甘いも経験し尽くした達観の色を滲ませている。彼はどこかニヒルにすら見える微笑みを浮かべながら、放るようにその小さな手を差し出した。


「俺は西浦渚。さっきは弟が世話をかけたな。兄弟ともどもよろしく頼むぜ」


 出久は目をぱちぱちさせた。弟? いったい誰のことだろう。こんな小さな子(振る舞いからしてとても年相応には見えないが)の、さらに年下の子どもなんて心当たりがない。さっきお尻を思い切り蹴り上げてきた舜だろうか? だがこの渚という少年は舜よりも華奢で背が低い。年上と言うことはまずないだろう。


 出久は答えが分からず狼狽えながら、差し出された手を屈み込んだ姿勢のまま握り返した。その態度でおおかた察したのか、渚は仕方がないというふうに苦笑しながら言う。


「太陽だよ。さっき翔が紹介したんだろ? 俺はその「兄貴」だ」


 その名前を聞いて、今思い浮かぶ人物はひとりしかいない。太陽。今日知り合った、あの引っ込み思案で臆病な少年だ。確かに彼と渚は髪も目の色も同じで、顔立ちも似ている。


 だが、渚は今自分のことを「兄貴」と言った。出久よりも立派な図体をした太陽と、明らかに7、8歳の出で立ちの渚とでは、どう頑張っても渚の方が年上だとは考えられない。――いや、確かに話し方や立ち振る舞いだけなら、渚が兄で太陽が弟だというのも頷ける話だが。


「あに……?」


 思わず声に出てしまった。渚は出久の呟きを聞くと、自嘲するように顔をゆがめて笑った。

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