【ヒロアカ】血まみれヒーローと黒の少年【原作沿い男主】
第7章 アザミの家
と、先ほど舜と闇裡が姿を消した廊下の角から、今度は別の少年がゆっくりと姿を現した。舜よりもかなり上背のある、しかしやはり幼い少年だ。短くさっぱりとした黒髪に、少し太い眉毛、繊細さを醸す薄い唇は潤そっくりで、一目見ただけで彼との血の繋がりを感じさせた。憂いを帯びる切れ長の瞳は、群青のような紫のような、或いはその二つの色が混ざり合ったような、深く美しい色をしている。
と、思わずみとれてしまうような色の瞳が出久を捉えた。しかし少年は舜のように攻撃したり、太陽のように逃げたりもせずに、鏡のような感情の伺えない目でじっと出久の目の中を見つめてきた。そのまま躊躇いもなくこちらに近づいてくる。
出久はたじろいだ。こちらをひたすら見据えてくるその顔は、無表情さえ通り越しているというか、決まりきった表情を永遠に浮かべ続ける人形のような違和と不気味さを醸していたからだ。まだ9、10歳くらいの、普通なら特に表情豊かな歳の少年ということも相まって、その感情が完全に欠落した顔はいっそう無機質で作り物めいて見えた。
少年は出久に視線を据えたまま、彼の正面に立っている潤の傍で立ち止まった。
「おー、諒。起きてたんか」
「もう大丈夫なのか?」
潤が問うと、諒と言われたその少年は彼の顔をゆっくりと見上げ、ゆっくりと頷いた。その堅く結ばれた口は動く気配すらない。
「こいつは諒。陸と諒は俺の実の弟なんだ」
潤は少年の肩を抱いてそう言った。「そうなんですか」と言いながら、まじまじと三人を――潤と少年と、辺りを奇怪な動きで跳ね回っている陸とを――見比べる。潤とこの諒という少年は、顔立ちや雰囲気がとても似ているので兄弟だと分かるが、陸は……どうだろう。目は潤や諒と同じ系統の色をしているが、髪の色も違うし、どこか全体に暗く憂いを帯びた外見の他二人に比べ、陸は中性的で華やかな顔立ちをしている。一目では血が繋がっているとは分からないだろう。
そんな出久の心理を見透かしたように、陸がフィギュアスケート選手のようにくるくると回転しながら出久の前に躍り出て言った。
「そーだよー! 俺は母さん似でぇ~、潤兄と諒は父さん似なんだぁ! まあ二人とも死んじゃったけどね!!」