【ヒロアカ】血まみれヒーローと黒の少年【原作沿い男主】
第7章 アザミの家
「こら、舜。何するんだ。お客さんだぞ」
潤が出久の向こうから少年をたしなめた。しかし効果はなく、般若のような顔つきのまま少年が吠える。
「知らねーよクソが!! 勝手にうちに入ってくんなそばかす野郎!! 死ね!!」
唾をとばしながらの壮絶な罵倒に、出久は唖然とした。このくらいの歳の男の子は確かに口が悪いものだが、それにしたって暴力的な口調だ。傷ついた野犬のような鬼気迫る剣幕に、声をかけるのもはばかられる。
すると、戸惑う出久を助けるように、明の背後から先ほどの少女――闇裡が身を乗り出し、目をつり上げて少年を叱った。
「舜! こら、謝りなさい!」
「うっせーよバーカ!! 売女!! クソ処女野郎!!」
聞くに堪えないような罵詈雑言を闇裡に吐きかけると、舜と呼ばれたその少年は脱兎のように廊下の角に飛び込み、あっという間に姿を消してしまった。闇裡は一瞬傷ついたような表情を見せたが、すぐさま気丈に眉をつり上げ「舜! こら!!」と声を上げながら少年を追っていった。先ほどあんなに見られるのを気にしていた尖った犬歯をむき出しにして、自己紹介とは打って変わったおてんばさだ。
嵐が過ぎ去るように二人がいなくなると、潤は穏やかな、しかし申し訳なさそうな口調で出久に謝った。
「ごめんね。お尻、大丈夫?」
「えっ、あっ、はい! だ、大丈夫です」
出久は言いながら後ろ手でお尻をさすった。本当はまだ少し痛い。割と本気で蹴られたようだ。7、8歳のいたいけな少年だったから良かったものの、もう少し力が強かったら青あざでもできていたかも知れない。しかしまあ、お尻の心配をされるというのも何だか恥ずかしい気分だ。
「あいつ、万年反抗期なんだ」
「最近さらに言葉悪くなってんなー。てか売女と処女って矛盾してね? ぜーったい意味分かってねーよな」
明は相変わらず軽いノリでからからと笑った。あれが「言葉が悪い」で済むものなのか……売女だの処女だの、あの歳の少年が知っているとは思えない暴言はいったいどこで覚えたのだろう。証拠など全くないが、何となく明や翼あたりを疑ってしまう。