【ヒロアカ】血まみれヒーローと黒の少年【原作沿い男主】
第7章 アザミの家
殺そうとした? 研究者?
何やら物騒な言葉が気になったが、彼らがあまりに自然に、何でもないふうに話すので追及するのがためらわれた。それが翔やこの施設にいる孤児たちの、もっとも深い闇の部分をあらわす言葉であるとも知らずに。
それから出久は、ぽつぽつとワン・フォー・オールの使用感や、使ったときにどういう負傷の仕方をするかをひかるに話した。話して良いことなのかどうなのか分からなかったが、質問の内容から彼がワン・フォー・オールについてかなり知っているのだと言うことは明白だったし、その場しのぎで取り繕ったところで意味はないし――何より、本当に純粋に知りたくてたまらないというような表情をしていたから。
「なるほど、内側から爆発するような感じなんだね。骨もバキバキに折れるし、出血も……。なるほど、おそらくはワン・フォー・オールのパワーが体内で暴発して、体組織が耐えきれず四散するんだ」
ひかるはどこからか取り出したメモ帳とペンで出久が答えたことを書き付けながら、ぶつぶつと考察らしきことを呟いていた。こういうところも自分に似ていて、何となくシンパシーを感じてしまう。
と、彼の鮮やかな青い瞳に急に憂いの色が差した。長い睫毛が瞳に被さり不穏な陰をつくる。
「やっぱり、自分でない他人の個性を受け入れるのは容易じゃないんだ。「個性を引き継ぐ個性」であるワン・フォー・オールでさえ。個人差はあるだろうけど……根本的には相容れない。だとしたら……」
そこまで言って、ひかるはペンのノックの部分を唇に押し当てたまま黙り込んでしまった。眉をひそめた表情はいかにも深刻そうで、端から見ていても何か彼にとって良くないことを考えているのが分かる。
けれどそれはほんの短い間で、彼はすぐにはっとして顔を上げた。
「ごめんね、質問攻めにして。ありがとう! 貴重な話が聞けて良かったよ」
誤魔化すように笑い、出久と握手をすると、ひかるはそれ以上何も聞いてくることはなかった。気にはなったが、例によって追及はできない。
しかしひかるの言葉。「他人の個性を受け入れるのは容易じゃない」というのは、出久も身をもって実感しているところだ。ワン・フォー・オールを自在に操れるようになるには、更に努力と研鑽を積んでいかなければならないと改めて思った。