【ヒロアカ】血まみれヒーローと黒の少年【原作沿い男主】
第7章 アザミの家
そう穏やかに微笑まれ、出久は不思議な感覚に苛まれた。先ほど敵との戦闘が終わった後、翔が言った「恐い」という言葉が思い起こされる。あのときと同じ感覚だ。彼らの奥深くにしまい込まれた魂の一部に触れたような、その熱を、訴えを、願いを、一瞬すべて理解したかのような。
けれどその感覚は本当に一瞬で、まばたきをするような合間に瞬時に遠のき消えていってしまう。そうして後には、すべて錯覚だったのではないかという疑念だけが心の底に澱って残るのだ。
まともだとか、頭がおかしいとか。救う、だとか。結局のところよくは分からない。
でも何か、とても大事なことを言われた気がした。けして忘れてはならない、大切なことを。
「うんうん、それは良いけど潤兄、それ今日4本目だろ? 飲み過ぎだから没収~」
「あっ……」
変わらぬ調子でにこにこ笑っていた明はそう言うや否や、潤の持っていた水のペットボトルをさっと取り上げた。潤が悲しそうな声を上げ、しゅんと俯く。結構な落ち込みっぷりだったので、結局先ほどの言葉の真意は聞けずじまいになった。
「あ、これは弟のひかる。見たら分かると思うけど、俺とは実の兄弟だぜ~」
潤から奪ったペットボトルをぷらぷらと振りながら、明はちょうど傍に来た少年の肩を抱いてみせた。
なるほど明の言うとおり、その少年は明そっくりの出で立ちをしていた。癖のないさらさらした黒髪に、果実のように鮮やかな青の瞳。それに――鼻頭から右目、右顎にかけて走る、黒く染み着いたような傷跡も。
だが雰囲気はまるで違って見える。快活でやんちゃなイメージの明と違い、その少年からはやや引っ込み思案で控えめな印象が伝わってきた。まつげが長く、やや中性的にも見える容姿も相まってか、かつて無個性だった自信のない出久に似ているようでもある。
「ひかるです。よろしく」
少年――もといひかるははにかむように笑って会釈した。出久も「み、緑谷出久です。よろしく」と早口に挨拶し頭を下げる。