【ヒロアカ】血まみれヒーローと黒の少年【原作沿い男主】
第7章 アザミの家
と、出久の返事がないことを訝しく思ったのか、その満面の笑顔に急に陰りが差した。輝いていた瞳はみるみる焦点を失い、口が悲しそうにへの字を描いてわななく。その変わり様は、まるでお面か何かを取り替えたように突然で一瞬だった。
「だめなの? だめ? おれ一生懸命考えたのに。だめなの? 何で? 何で? おれがバカだから? 何もできないから? いつもだめって言われる。だめって。ごめんなさい? 違う。ごめんなさい。違う。ひどいよ、そうだ、ひどい、ひどいひどいひどいひどい――」
大きな瞳を涙ぐませ、譫言を呟いて今にも泣き叫びそうになった少年を、咄嗟に止めたのは潤だった。流れるように少年の背後に立ち、慣れた手つきでその目と額を大きな手で覆い隠す。
「陸。落ち着け」
「りーく。だめなんて一言も言ってないだろー?」
潤の静かな声と、明のおどけたような、しかし優しさの滲んだ声に、少年は一気に緊張を解いた。肩からみるみる力が抜け、譫言を垂れ流していた口からほぅ、と安心したようなため息を漏らす。
潤は背後から少年を抱き込むようにしながら、出久を見た。明も何かを促すように顎をしゃくりながら視線を送ってくる。出久は混乱しながらも、先ほど少年がまくし立てた言葉を必死に思い出した。確か、あだ名がどうとか言ってなかったか。みどりくん、とか何とか。
「い、いいよ。みどりくんで」
出久は掠れた声でようやくそれだけ言った。語尾が震えてしまったのは偶然か、それともこの明らかに情緒不安定な少年に恐れをなしているからか。
少年――もとい陸は、出久の言葉を聞くやいなやすぐさま顔を上げ、目を覆っていた潤の手を豪快に引きはがした。その下から再び現れ出た瞳は、まるで光を浴びるアメジストのようにきらきらと輝いていた。
「ほんと? ほんとに? いいの? いいよね? やったぁ!! じゃあみどりくんで決定ね!」
「うぶっ」
先ほど泣き叫びそうになっていたのは幻だったのかと言うほどご機嫌になった陸は、びょんびょん飛び跳ねながら出久に抱きついた。それはほとんどタックルのような力強さで、突如首から背中にかけて襲った衝撃に出久は思わず呻き声を上げた。入学試験合格のためにオールマイトに鍛え上げてもらった筋肉がなければ、筋でも引いていたかも知れない。