【ヒロアカ】血まみれヒーローと黒の少年【原作沿い男主】
第7章 アザミの家
それから数分。部屋から翔が出てくる気配はない。院長室と言うからにはこの施設の責任者のような人と話しているのだと予想はつくが、それらしい会話の声は聞こえてこない。扉にぴったりと耳をくっつければ聞こえるのかも知れないが、そんな盗み聞きのようなことはさすがにしたくない。出久は扉をやや斜め前に見ながらぼうっと突っ立っているしかなかった。
人の気配はない。孤児院と言うくらいだから子どももいるのだろうが、声すら聞こえずひっそりとした沈黙だけが辺りを覆っている。さっき逃げていった太陽はどこへ行ってしまったのだろうか。
何とはなしに後ろを振り返ってみる。この場所は後ろの壁に大きなガラス窓があって、そこから建物に囲まれた中庭が隅々まで見下ろせるようになっていた。さっき正面から見たときは奥まったところにあってよく見えなかった遊具などもしっかり見えて、知らず窓の方に身体が寄っていく。
(あ、ジャングルジム。懐かしいなあ……)
個性もなくのろまな出久は、家の近くの公園でもヒエラルキーは最低辺だった。人気の遊具は軒並み勝己以下ヒエラルキー上位の子どもたちに奪われ、砂場の一画を間借りして砂いじりをしたり、人気のない鉄棒に意味もなくぶら下がったりするのが日常だったのだ。門限間際、他の子どもたちが帰っていくのを見はからかって、少しの間だけ誰もいなくなったブランコやジャングルジムで遊んだのを思い出す。
そこでふと気づいた。ブランコの傍に何人か人がいる。そのうちの二人はさっき別れた桜と翼だ。翼は人間の姿に戻っていて、きちんと服も着ている。二人とも、なぜかとても楽しそうだ。時々笑い声も聞こえてくる。
そして――ぎょっとした。桜と翼以外の人間、4人くらいだろうか。全員もれなくバイクのライダーのようなフルフェイスのヘルメットをかぶっている。色は赤、青、緑、オレンジとまちまちでまるで戦隊もののアクターのようだ。皆高身長で、遠くから見ても180cmは確実に超えているだろうことがわかる。女性の中ではかなり高身長な桜が小さな子どものように見えてしまうほどだ。服装はまちまちで、すらりとした体躯の者が多いが皆筋肉質に見える。全員成人男性だろう。