【ヒロアカ】血まみれヒーローと黒の少年【原作沿い男主】
第6章 謎の少年
「翔の好きにすればいい。あなたがやめとくと言えばやめるし、連れて行くというのならそうする。私はあなたの判断に従う」
少女は唄うように言った。彼女の金の瞳が、何か強い情念を宿して濡れたように輝きながら翔を見つめていた。恋慕などと言うには清廉すぎるその眼差しを、どう形容すればいいのだろう。崇拝、或いは、盲信か。
「おい、無責任なこと言うなよ桜! それだからコイツが……」
「来てもらおう」
少年の反論を制するようにして翔が言った。
「これ以上疑わせたまま、不安にさせたままにしとくのは……申し訳ない。大丈夫、凪人とは話をつけてる」
強く、自らに言い聞かせるような声。翔の視線はもう下がってはいなかった。苦しそうにしながら、それでもまっすぐに顔を上げて出久を見ている。鮮やかな赤の瞳に灯る真摯さに、出久も自然顔を上げていた。
「ごめん。翼」
翔は傍らに立つ少年に目を向け、顔を歪めるようにして笑った。いつも困らせている相手に、例のごとく迷惑をかけるときに浮かべる、申し訳ないというような、何かを誤魔化そうとするような笑みだった。
「謝んなって、お前。ほんとにさ、もう……」
少年はやりきれない様子で、ぐしゃぐしゃと豊かな金の髪を手でひっかき回した。
「いーよ。どうせお前はいつも自分で決めちまうんだから。俺らが止めたって意味なんかねえんだろ」
拗ねたようにそっぽを向いた少年に、呆れた様子で少女が言う。
「何よ、心配だから勝手なことするなって素直に言えばいいじゃない」
「だっ、なっ、ちょっ……そういう意味じゃねーよ! 変なこと言うな桜!」
少年の慌てふためいた顔に、みるみるうちに朱がさしていく。図星をさされたのが丸わかりだ。こんな状況でなければ――ここが3人の屈強な敵が気絶してごろごろと転がっている路地裏でなくて、さらに彼が全裸でなければ――、微笑ましいとすら思っていたかも知れない。
少年が反論してこないのをみとめ、改めて翔が出久を見据えた。