【ヒロアカ】血まみれヒーローと黒の少年【原作沿い男主】
第6章 謎の少年
こめかみと頬に打撃を受け、一瞬で二方向に頭部を吹き飛ばされた眼帯男は、声も出せずによたよたとたたらを踏んだ。それでも何とか持ち直し、両手を突き出すようにして防御の体勢をとる。
出久は男の、両手の甲から肘にかけてを包んでいた籠手のような防具が、瞬時に鉛色に染め抜かれるのを見た。おそらく「硬化」の個性を発動したのだろう。男はまだ諦めていない。血走った目を爛々と輝かせ、確実に迎撃するつもりでいる。
それでも少女の表情はちらとも変わらなかった。トレーナーのポケットからもう片方の手を取り出すと、指先をくるくると回し中空に螺旋を描く。
するとその動きを真似るようにして、鞭がものすごい速さで眼帯男の周りを回り、両腕ごと男の上半身を縛り付けたのだ。頑丈な鉄鞭にめちゃくちゃに絡みつかれた眼帯男は、防御のために両腕を突き出した格好のまま身動きがとれなくなった。鉄鞭は確固たる意思を持ってその場にとどまっているため、絡みつかれたまま退くこともできない。自由な下半身をむやみにばたつかせたせいで、足が踊り、バランスを崩した。そのまま為す術もなく転倒する。
後頭部を激しく打ち付けた眼帯男を無表情に睥睨し、少女は空を向いたままの人差し指を素早く左から右へと振った。瞬間、男を縛りなお余っていた鉄鞭の先がびしりと男の頬を打ち据える。先ほどの攻撃より、格段に鋭く重い一撃だった。
「ぐうぇっ! あ……」
鞭の打ち据えた方向に頭を跳ね飛ばされ、眼帯男の咥内から勢いよく血が飛び散った。全身から力が抜け、腕が未だ宙に浮いている鉄鞭に吊られたようになる。白目をむいているのを見ると、もう起きあがってきそうにはない。完全に気絶したようだ。
それを見届けてようやく、少女は腕をおろして息をついた。恐怖や緊張から解放されたという感じではない、一仕事終えたと言わんばかりの安堵の感が、その獣を思わせる顔ににじみ出る。