【ヒロアカ】血まみれヒーローと黒の少年【原作沿い男主】
第6章 謎の少年
眼帯男は叫び散らしながら、手に持った鉄鞭を思い切り振り上げ、少女に襲いかかった。狼はまだ気絶した鳥男に跨がる形で態勢を戻しきれていない。
まったく驚くべき速さだった。狼の脇をすり抜け、左足を踏み込み、腰を限界まで右に捻って、右手に握った鉄の鞭が放たれるまで、3秒もなかっただろう。火事場の馬鹿力というヤツか。
しかし、少女はあくまで冷静だった。おもむろにポケットに突っ込んでいた手を取り出すと、腕を伸ばして襲い来る鉄鞭の方に手のひらを差し向ける。
「私に『モノ』で攻撃するなんて、」
少女の指先が縄にふれる。と――鋭くしなって少女を襲おうとしていた鉄鞭の動きが、ぴたりと、完全に停止した。まるで少女にふれた瞬間、石になる呪いでもかけられてしまったかのように。中空で、振るわれた状態そのままに固まる様は、まさに「停止」と形容するしかない光景だった。
「ちょっと正気じゃないね」
個性、ちゃんと調べたの? 少女はそう言うと、にこりと人好きのする微笑を浮かべた。爽やかな、いっそ慈悲深さすら感じる笑みだった。
そこからの反撃はまさに電光石火だった。彼女にふれられた鉄鞭は、停止状態から不意にふわりと上空へ浮き上がった。妖精の粉を振りかけられたウェンディ達のような軽やかさで鞭は上昇し続け、ついには持ち手の部分が眼帯男の手からすっぽ抜けた。
「はっ?」
手をすり抜けて飛んでいく己の得物を眺め、男は素っ頓狂な声をあげる。と、瞬間、鞭の縄先がびゅるりと音を立て動いた。その先は少女ではなく――眼帯男だ。
鞭はまるで意思を持つ動物にでもなったかのように、実になめらかに動いた。縄先でびしりと男の右こめかみを殴りつけると、返す手で左頬を叩き払う。一切の迷いも容赦もないその攻撃は、まるで獰猛な蛇が己の獲物を追いつめているかのようだった。