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【ヒロアカ】血まみれヒーローと黒の少年【原作沿い男主】

第5章 懐疑



 白銀凪人。奴の言うことが嘘であれ真実であれ、これが相澤ひとりで判断できる案件でないことは間違いなかった。事は生徒に絡む問題だ。いくら一クラス丸ごと除籍処分にできるような身に余る権限を与えられているとはいえ、生徒の進退を決めるのには重い責任が伴う。周りの教師や校長に何の相談もなしに独断で決めていいということにはならないのだ。


 が、正直事情が複雑かつ特殊すぎて、相澤ひとりでは判断がつかないというところも大きかった。白銀の言うように、政府の組織が関係しているなら尚更のことだ。できる限り今回の件を詳らかにし、校長に報告する。然る後に白銀と転校生を召集して事情を聞く、という運びになるだろう。今の相澤にできることはあまりに少ないが、だからこそ簡潔明快だ。


 そう、この件を迅速に報告し、上からの指示を待つ。それが最善であり、教師として、組織の一員として成すべき行動だ。相澤は冷静だった。それが正しい判断であると思ったし、事実それは合理的な選択だった。別に相澤でなくたって、雄英の教師なら全員がそうしただろう。そのくらい明白な答えだった。


 それなのに。


「消太」


 白銀にかき乱され、ばらばらに散らばった思考の端で、声を聞く。静かに凪ぐ海の風のような、穏やかで優しい響きをはらんだ声だ。高校生時代、ヒーローになるために日々がむしゃらに学んでいた頃、相澤は毎日のようにこの声を聞いた。天涯孤独な身の上がそうさせるのか、笑っていてもどこか泣いているような、悲しそうな表情をする男だった。


 手元の紙に視線を落とす。地図と番号、パスワードが走り書きされた紙。自分の手汗で湿り、黒い文字が少し滲み始めたのをみとめて、慌てて紙の端っこの方を持ち直す。


 この紙にかかれた場所に行く選択肢など、ないはずなのに。


 自分は何をしているんだろう。そう思った途端、相澤の胸中に奇妙な感情が生まれた。日々合理性を追求する彼からはおよそ生まれてくるはずもない感情だった。


 ――行かなくていいのか? 本当に?


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