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【ヒロアカ】血まみれヒーローと黒の少年【原作沿い男主】

第5章 懐疑




「相澤センセー。誤解しないでほしいんですが、私はあなたを騙そうとか、貶めようとかしているわけではありませんよ。おおかた指示どおりにこの場所に赴けば、捕まるか脅されるか殺されるかすると思っていることでしょうが……よく考えてもみてください。あなたに危害を加えれば、せっかく翔が手に入れた新しい居場所はどうなるでしょう? 私はあれの立つ瀬がなくなるようなことはしません。絶対に」


 相澤は思わず視線を上げた。先ほどまで人を揶揄うようなのらりくらりとした態度をとっていた白銀の言葉尻に、急に力がこもったからだ。見上げた先にはあの嘲るようなにやついた顔ではなく、口を真一文字に引き結んだ真摯な表情があった。何か強固な意思を宿す紅茶色の目は妙に据わっていて、どこか意固地になっているような、或いは何かを盲信しているような、ひどく愚直で危なげな印象を与えている。


 だが、それはほんの一瞬だった。真摯な瞳はすぐさまにやつくように弧を描き、薄く張り付けたような笑みの奥に隠れていく。普段通りの表情を取り戻すと、白銀は素早く踵を返しすたすたと応接室の出入り口に歩いていった。その手がドアノブにかかっても、相澤は止められない。止められるような言葉などかけられそうもなかった。


「翔をつけ狙う畜生どもも雄英内のセキュリティを超えることはできませんし、多くの優秀なヒーローが待ち受ける場所にのこのこ入ってきたりはしないでしょう。だからあれを雄英に入れた、ということもあります。どうぞあれを立派なヒーローに育ててやってください。花を育てるみたいに、大事に、慎重にね」


 白銀は首だけで振り返りそう言い残すと、颯爽と応接室を後にした。軽やかに翻る白衣の裾がドアの向こうに消え、ぺたぺたというスリッパの足音が遠ざかり聞こえなくなっても、相澤はソファから一歩も動くことができなかった。


 これからどうする。いや、どうすべきか。考えなければならないのはまずそこだが、それはそう難しい問いではなく答えは既に用意されていた。そう、すなわち「報告」だ。


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