【ヒロアカ】血まみれヒーローと黒の少年【原作沿い男主】
第5章 懐疑
「何を……バカな、」
「言ったでしょう、サプライズだって。我々があなたに提供できるものでこれ以上のものは見つかりませんでした。数年前、事件に巻き込まれて死んだはずのあなたの友人が今も生きていると証明すれば、私の言葉が嘘ではないということも信じていただけますよね?」
「信じるも何も……あいつは死にました。もういません。生きているはずが、」
「あなたは夜牙が殺されるのを見たんですか? その目で、直接」
淀みなく返され、相澤は返答に窮した。まるでそんなことは有り得ないとでも言うような確信を持った語り口に、僅かながら気圧されたのだ。
白銀の言葉を反芻すると、なるほど確かに自分は彼の死ぬところを見てはいない。知り合いの警察官から訃報を聞き、テレビのニュースを見て確認しただけだ。死に際どころか、最後にいつ会ったのか、どんな言葉を交わしたのかすら覚えていない。
だとすると、本当に? いや、この男の言うことを鵜呑みにしてはならない。それが真実だと証明できるものがない限り、すべてが虚妄である可能性だってあるのだ。油断してはいけない。意思に反して段々と速く脈を打つ心臓に、言い聞かせるように心中で念じる。
相澤は常に平静を保つことをモットーとしている。取り乱したところで解決することなど何一つないからだ。感情をかき乱され、正常な判断ができなくなることほど不合理なことはない。そう思っていたのに、今の相澤は間違いなく取り乱していた。元来無表情なのが幸いして動揺は顔に出づらいが、それでもこの、人の感情を翻弄することに長けている男には何もかも見透かされているに違いない。
何も言わず黙り込んだ相澤を見て、白銀は用は済んだとばかりにソファから腰を上げた。その潔さからして、最初からこの場では決断をさせないままにしておいて、相澤個人の考えにこの件の是非を委ねようと考えていたようだった。
「そこに夜牙がいます。昔話に花でも咲かせてきてください。そうすれば私の言葉を疑うこともできなくなるはずだ」
けだるげに立ち上がった白銀は、相澤に渡した紙を指さし念を押すように言った。その声色は不安や迷いなど一切ない、いっそ不遜ともとれるほどの余裕を含んでいた。まるでこちらは嘘などついていないのだから、気後れする必要などないのだと暗に示しているかのように。