【ヒロアカ】血まみれヒーローと黒の少年【原作沿い男主】
第5章 懐疑
そう言うと、白銀は再び白衣の内ポケットに片手を差し入れ、今度は四つ折りになった白い紙を取り出した。指と指の間に挟まったそれをそのまま差し向けられ、相澤は用心深く受け取る。
「……これは?」
「ある隠れ家バーへの道筋です。下に書いてあるのは扉の解錠番号、その下のはその先のセキュリティチェックで入力するパスワードです。本来はここにさらに指紋と網膜認証が必要なんですけど、センセーは特別にパスワードのみで入れるよう手配しておきました。あ、番号とパスワードは1日に1回変わってしまうんで今夜中に行ってくださいね」
折り目に沿って開いたその紙には、上半分に手書きの簡素な地図と住所、下半分には数字と、その下にアルファベットや記号を組み合わせたものが走り書きされていた。それぞれの文字がランダムに配置されているところを見ると、白銀の言うとおり何かのパスワードのようだ。
「ここへ行って何が分かると言うんです」
相澤は眉をひそめて訊いた。たかが隠れ家バーがこんなに厳重なセキュリティを備えているということもきな臭いし、そもそも今の話の流れでなぜそんなものの居場所を教えられなければならないのか、まったくもって分からない。
「簡潔に言いましょう。これ以上話を複雑にしないためにも」
白銀はにやりと笑みを深め、手にしていた湯飲みを置いた。再び足を組み直し、だらしなくソファの背に寄りかからせていた上半身をやや前に乗り出す。
「久那夜牙は生きている」
その言葉に、相澤はひゅう、と小さく息をのんだ。膝の上で握っていた手指と手指の間からどっと汗が噴き出し、掌を湿らせる。というのも、白銀が口にした言葉がまったく予想だにしていないものだったからだ。まずこの男がその名を知っていることが信じられなかったし、まして今彼が言った言葉が真実であるとも到底思えなかった。
生きている。
久那夜牙が。
有り得ない。その名を持つ男は既に、何年も前に死んだ。警察官だった。家族のいない天涯孤独の身だったため、葬儀は執り行われず合祀されたはずだ。間違いない。だから咄嗟に口をついて出たのは否定の言葉だった。