【ヒロアカ】血まみれヒーローと黒の少年【原作沿い男主】
第5章 懐疑
「……白銀院長、どうも」
「あァ、相澤センセー。ど~もぉ。どーっしても気になっちゃって様子を見に来たんですけど、翔はどんな感じでしたかねぇ?」
「ええ」
相澤の呼びかけに、男――もとい、白銀は姿勢を正すこともなくへらりと笑って応じた。翔の様子を尋ねる質問に、僅かに目を伏せ答える。
「……そのことでお話が」
「へぇ。んふふ。お前何したの?」
相澤の意味深な態度にも白銀は全く動じない。翔の身体に体重を預けたまま、肩に顎を乗せてこてりと首を傾げる。答えようもない質問に、翔は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
「……何もしてない。ていうか帰れ、まだからだ本調子じゃないんだろうが」
「もうへーきだっつの。てーかお前は俺を甘やかしすぎなんだよぉ、ダメになっちゃうだろぉ」
何がおかしいのか終始へらへらと笑いっぱなしの白銀は、そこでようやくべったりとくっついていた翔から離れた。首だけ振り向き、ひらりと手を振る。
「つーわけで、俺はセンセーとお話してくっから。お前は帰れ」
「でも……」
「翔」
尚も言い募ろうとした翔に、白衣に包まれた腕が伸びた。翔の背中に回り込んだ腕はその両肩を抱き、まだ華奢さの抜けない薄い身体を引き寄せる。額と額をぴったりとつき合わせ、翔の驚き戦慄いた瞳を白銀の紅茶色の瞳が無遠慮にのぞき込む。
「いい子だから。な?」
「…………はい」
先ほどの軟派な声が嘘のように、低く胸の底に響くような声で宥める白銀。途端、翔は口を噤み、小さく返事をしておとなしく引き下がった。相澤にぺこりと頭を下げると、逃げるように身を翻す。
「今日はカレーが食べたいから作っといてくれよなぁ」
「ふざけんな一昨日もカレーだったろうが!」
「え~~」
翔の怒ったような返答に、白銀は不満そうに声を漏らしたが引き留めることはなかった。足早にその場を去っていく翔の背中を見送り、相澤の方に向き直る。
「で、センセー。お話って何です?」
「……あちらの応接室で」