【ヒロアカ】血まみれヒーローと黒の少年【原作沿い男主】
第4章 秘密を知る者
「な、ど、いや、ぼ、ぼく、え……?」
取り繕うこともできず冷や汗を垂らして狼狽える出久にしかし、転校生は動じることもなく安心させるように柔らかく微笑んだ。
「隠さなくたっていいよ、全部知ってるから。お前がオールマイトの後継者だってことも。ワン・フォー・オールのことも」
聞き間違いなどではなかった。やはり転校生は出久の秘密を知っている。口ぶりから察するに、おそらくワン・フォー・オールの秘密も。なぜ知っているかなどとても見当がつかないが、それよりもどう振る舞っていいものか、知っているならと開き直ればいいのか、何のことだととぼければいいのか、それすらも分からずに出久は唇を震わせることしかできない。血の気を失い冷たくなっていく頭の中で、ぐるぐるとコーヒーのミルクのように考えをかき混ぜる。
(どういうことなんだ? オールマイトは一部の人間以外はオール・フォー・ワンの秘密を知らないって言ってた。一ノ瀬くんがその一人だっていうのか? どう見ても高校生にしか見えない彼が? いったいオールマイトとどういう関係にあるって言うんだ? いや仮にそうだとしても、そんな重要人物が雄英に転校してきてるのに、オールマイトが僕に何も言わないなんてことあるはずない。ならどうして一ノ瀬くんは……)
考えれば考えるほどどつぼにはまり、次に言うべき言葉が出てこなくなる。小刻みに震える両の手指をすりあわせながら、出久はやっとのことで口を開いた。
「どうして……? き、きみが、何を知ってるって……」
喉がからからに渇いているせいでひどく掠れた、質問にもなっていない質問にしかし、転校生は聞き返すようなことはしなかった。まるで出久がそうして狼狽えるのを予測していたかのように、少し申し訳なさそうに微笑む。
「最初は黙っておいた方が良いと思ったんだ。でも、ワン・フォー・オールの後継者っていう重い運命を背負ったお前に、事を荒立てたくないからって何も言わずにいるのは失礼だと思って。だから、これだけは言っておくよ」
転校生はそう言って、自分の胸に手を当てた。黒く尖った爪がわずかに体操服に食い込み、皺を作る。