【ヒロアカ】血まみれヒーローと黒の少年【原作沿い男主】
第3章 対人戦闘訓練
バガァン!!
「がはっ……!」
待ちかまえていたビルの壁に、勝己の体が音を立ててめり込む。瞬間的に呼吸ができなくなり声もなく喘ぐ勝己に、休む間もなくさらなる一手が襲いかかった。翼を軽くはばたかせ推進力を得た転校生が、身動きのとれない勝己に音もなく迫ったのだ。
両足を突き出し勝己の腹の両側あたりの壁に着地すると、そのまま上半身を大きく反らせて両腕を引いた。掌底を食らわせたときには引っ込ませていた爪がいつの間にか伸びていて、五月晴れの太陽の光を受けてぎらりと妖しく光る。合わせて十本あるそれはまるで獲物に飢えた獣の牙のように、壁にぶつかった衝撃で動けない勝己の体めがけて一直線に襲いかかった。
出久は息をのんだ。瞬間的に思ったのだ。殺される、勝己が殺されてしまう、と。
「やめ!!」
相澤の強い制止の声がなかったら、出久は間違いなく勝己を助けるために飛び出していただろう。それほどに転校生の攻撃は鋭く、気迫に満ちていたのだ。相澤が声を上げた時、転校生の黒い爪は勝己の全身をビルの壁に縫い止めるようにして突き刺さっていた。小指の爪は腰のすぐ横、薬指と中指は脇、親指は太股、そして人差し指は交差して首を固定している。少しでも身じろぎすればすれすれに突き刺さった爪の鋭い断面が体に食い込み無傷では済まなくなる、まさにぎりぎりの箇所に、転校生は的確に自らの得物を穿ったのだ。これにはさしもの勝己も身動きひとつできず、顔を思い切り歪めて歯噛みするしかなかった。
「爆豪、身動きとれないな? ……一ノ瀬の勝ちだ」
相澤は静かにそう告げると、片手をあげて試合の終了を宣言した。しかし、声を上げる者はいない。転校生の闘いぶりに圧倒され、声を出すのすらはばかられたからだ。
当の転校生はというと、汗すらない涼しい顔で息をひとつつき、勝己を縫い止めていた十本の爪をずるりと引き抜いた。支えを失った勝己の体はめり込んでいたビルの壁から剥がれ、べしゃりと膝から地に落ちる。爪についた砂埃を息で吹き飛ばしながら転校生は、驚きと怒りと悔しさで全身を小刻みに震わせる勝己を横目で見やり、柔らかく微笑みながら言った。
「やりすぎた? でも、俺は忠告したからな」