【ヒロアカ】血まみれヒーローと黒の少年【原作沿い男主】
第7章 アザミの家
ぎりぎり器におさまった力。けれどあまりに強大すぎるその力は、ひとたび使おうとすれば肉体を粉々に破壊してしまう。痛みも、苦しみも、悔しさも、苛立ちも、何一つ慣れることはできない。唯一の相談相手のオールマイトは誰よりも親身になってくれるが、最初から力を扱えていたから出久の抱える問題をすべて理解してくれるわけではない。だから自分で道を切り開いていくしかない。この力と、この個性と、どう向き合っていけば良いのか。そればかりがずっと脳内で渦を巻いている。早く解決してくれと叫びたててくる。個性を受け継いだことを後悔はしていない。無個性の自分に与えられた恵まれすぎた力だ。ものにしたい。扱えるようになりたい。扱えるようになったその力で、ヒーローになりたい。絶対になりたい。諦めるという選択肢は最初からない。でもどんな強い意思も、痛みや苦しみや悩みを打ち消してくれるわけじゃない。耐えて、耐えて、歯を食いしばって、考えて、考えて、しがみついて、それでもいっこうに進歩はない。まだ入学したばかりだ。そんな風に焦ったって仕方がないじゃないか。気長に、気長に。オールマイトもそう言う。でも、そんな風に考えても焦りや苛立ちは柔らいでくれない。高校生活は3年しかない。1年は12ヶ月しかない。こんなすごい力を持て余している自分が情けない。でも出来ない。力を使うたびに身体は壊れ続ける。痛い。苦しい。どうすれば良いのか分からない。突破口。何かのとっかかり。それさえあれば。でも見つからない。それでも諦められない。どうすれば。どうすれば良いんだ!
それは当の本人ですら気づかなかった出久の深層心理だった。進歩と言ったって、ワン・フォー・オールがそんなに簡単に扱えるようになる力だとは思っていないし、今はただ身体を鍛えて力を受け止める器を強く大きくしていくしかないと理解はしている。実際に行動もしている。けれど、このままでは駄目なのではないかという不安や焦りは着実に降り積もっていて、時間の経った紙コップから水がじわじわと染み出していくように、少しずつ出久の心に表出しようとしていたのだ。