【ヒロアカ】血まみれヒーローと黒の少年【原作沿い男主】
第7章 アザミの家
「…一ノ瀬くんを、悪い人だと思いたくないんです。初めての授業の後、声をかけられて、あのとき、僕は、」
再び絞り出した声は、やっぱりがさがさに掠れていた。唇を慎重に舌で湿らせて、もう一度口を開く。胸の底に溜まった澱を、少しずつすくって形にしていくように、言葉を紡いでいく。
「…救われたと思ったんです。ワン・フォー・オールをろくに使いこなせないで、焦って、落ち込んでいる僕を、励ましてくれたんだって。秘密を知っていることを教えて、そんなに気負わなくても、傍にいるから、きっと力になるからって、教えてくれたんだと思うんです。あのとき、たしかに救われたと思った僕の気持ちが、ただ騙されただけのニセモノだと思いたくないんです。僕は信じてるから。一ノ瀬くんが、本当は悪い人じゃないんだって」
言い終わってから、出久は改めて自分の言葉に思い知らされた。救われた。そうだ。翔が声をかけてきたとき、ワン・フォー・オールのことに言及され混乱する一方で、彼の優しさを染みるように温かく感じたんだった。