第26章 【キスミー番外編】9.5章
恋人ができた。
とかそんな簡単な言葉で繰くんじゃねぇと
思いはするが、
だからといって、俺たちの関係にそれ以上の名前は、無ぇ。
『勝己』
俺を呼ぶ声は前にも増して甘ったるい。
昔デクが好きだった胸焼けがするほど甘かった飲み物を思い出すほど
「…んだよ」
『ふふ、ごめんね
呼んでみただけなの』
ふわりと笑う彼女の頬に、また糖度が上がっていく。
自分がこんなに甘いものが好きだったのかと、初めて知る午後5時。
放課後の俺の部屋で2人、向かい合ってノートを開く。
時々、はらりとこぼれ落ちる耳にかけた濃い茶髪が、また細い指で掬いあげられて耳にかかるのを、ぼんやりと眺めていた。
思い出したかのように絡まる視線が、
照れたように笑うゆりなが
どうしようもなく、愛おしく
チクリと胸が痛んだ。