第9章 【ハイキュー】バレンタインデーイブ【及川徹】
その声と同時に、体が少し離し
頭下30センチ以上先の顔に
目の前まで近づく
唇が重なる直前で、及川はそのモカ色の瞳を薄く開き
「逃げないの?」
と低く、甘えるような声を出した
『……な…に』
ゆりなの返事を聞く前に重なった柔らかな唇は、外気のせいか暖かく
その隙間を割って触れる舌はもっと熱い
「ごめん……好きだ、ゆりな
……ごめんね、今だけ…」
『…とぉ……る…』
唇の端から酸素を求めるように声を漏らすゆりな
拒絶の言葉なら後でいくらでも聞くから
だから10年以上焦がした想いを、今だけ伝えさせて
夢中になって唇を重ねていると、涙の味がして目を開く
「あ………」
正気に戻った及川は、掴んでいた体を離し
青ざめた
ゆりなの頬に伝う、いくつもの涙の粒
それさえも、一瞬、とても綺麗だと思ってしまったけれど
それよりも自分のしてしまった事の重大性に焦る。
「ごめん!泣かないで…
俺…ごめん…こんなこと、するつもりじゃ…」
完全にカッとしてやっていた。
好きになってもらえなくてもキスくらいさせてよって…
それに、ほんの少しだけ
期待を込めていたのかもしれない。
好きになって貰えるかもっていう淡い淡い期待。
返ってきた答えの
ハラハラとこぼれ落ちる涙を掬い上げるように手のひらで拭う
『徹…ぁの…
「ごめんね…でも、
好きだよ、ゆりな
ううん、ずっと前から好きだった…」
何か言おうとしているゆりなの言葉に被せるように話す。
もう二度と口を聞いてもらえなくても、俺が本気だったっていうのだけでも伝えたくて。