第2章 4月『沈黙の少年』
「………ああ。そんな事ですか。」
ただ、予想を裏切り
俺の質問に草薙は呆れた顔をする。
一瞬俯いてから、草薙は顔を上げた。
「僕は…別に、それで構いません。」
「……真面目なだけじゃ、
上手くいかないって気付いた。」
「それは、その証拠です。」
それでは、と言って校舎を出ていく草薙。
でもその背中はとても小さく見えた。
「草薙…お前………、」
声をかけようとしたけど、
何も言葉が出なかった。
俺の声掛けにも気付かず、
草薙はそのまま振り向かずに
去っていってしまった。
『真面目なだけじゃ、上手くいかない』
そう言った草薙の顔は頑として無表情で、
氷のように冷たかった。
それは、
誰も信用していない、と言いたげな瞳。
「やっぱり、何か裏があるのか………?」
………考えても分からなかった。
まだ俺は草薙という人間を
知らなさすぎる。
…ならば、少しずつ歩み寄っていこう。
たとえ、嫌がられても、逃げられたって
何度も追いかけてやる。
そうすれば、
君の事が分かるかもしれない。
その言葉の意味が、
その冷たい瞳の理由が、
君の心が、分かるかもしれない。
「…………よし。」
気合いを入れる。
なら、まずは俺と世間話をすることから、
始めなきゃな!
「草薙ー!また明日な!!」
俺が大声で呼びかけると、
草薙は嫌そうな顔をして一瞬振り向いて、
無視して去っていく。
「…いつか笑って真田先生さよならって
言わせて見せる!」
俺の野望と希望を込めた想いを胸に
俺は新学期を一歩、踏み出すのだった。