第10章 11月『王子様の超越』
「……甘そう。」
兄さんがまたホットケーキを口に運ぶ。
すぐになくなっていくホットケーキを
見ていると、兄さんと目が合った。
「……………………。」
「………………………………?」
首を傾げると、
何故か、兄さんはスッと目を細める。
「………。」
フォークを置いた兄さんの手が僕の頬に触れる。
急にどうしたんだろう。
兄さんのすごく切ない気持ちが伝わってくる。
「………………何?」
僕が聞くと、
兄さんがぼそりと呟いた。
「…………何処にも行くなよ、。」
「………………?、うん。」
僕が頷くと兄さんは
切なそうに笑って、またホットケーキを
食べ始めた。
変な兄さんだ。
文化祭を楽しんでるはずなのに、
なんだか不安と恐怖が垣間見えるような
そんな感じ。
「…………………。」
兄さんの心は朝よりも少し荒れているのに
その本心は分からない。
兄さんの気持ちが
分からない事があるなんて…………。
僕が何度考えても
兄さんのあの表情の意味を、
言葉の意味を、
理解する事は出来なかった。