第5章 7月『ピアノとBBQ』
「出ていくのはお前らだ。」
「ゲッ…B6の…七瀬……!?」
「コイツに言いたい事があるなら
俺達を通して貰わないと困るんだがな。」
「………………ッ」
周りの男子がどよめいて、我に返る。
後ろを振り向くと、瞬が般若の顔をして
立っていた。
「………瞬?」
「行くぞ。」
男子生徒は瞬に恐れをなして、
僕から離れた。
その隙に瞬が僕の手を握る。
僕はそのまま瞬につれられてその場を去った。
「何されていた。言え、。」
「別に……いつもの通り言われてただけ。」
バカサイユの入り口前で
瞬は僕の体を確認する。
僕の顔や手を一通り見た後、
瞬は納得したように頷いた。
「…………確かに怪我は無いようだな。」
「ないよ。」
「…………ならいい。」
僕の安全を確認すると、
瞬の顔がやっとほころんだ。
僕もその顔を見てホッとする。
「………ありがとう。瞬。助かった。」
「今に始まった事じゃないだろう。」
「……そうだね。」
僕が頷くと、瞬は笑った。
僕もつられて笑いながら、
さっきの事が脳裏に過ぎった。
『先生はお前に迷惑してるに決まってる!』
……………………。
「…………ねぇ、瞬」
みんなの待つ部屋に入ろうとする瞬を止めた。
「なんだ?」
「…………瞬は、僕の事……迷惑?」
僕は瞬の服の袖を力なく掴んだ。
僕が瞬の顔を見れずに俯いたまま言うと、
瞬は僕の顎に手を添えて、上に持ち上げる。
瞬と僕の視線がぶつかった。
ぐらりと視界が揺れる。
「…………、何か言われたのか。」
「……………………。」
「……馬鹿。」
顎に添えられた手を外し、
瞬に抱き締められる。
瞬のふわふわな服が顔に当たって擽ったい。
「……………迷惑と思っていたら、
こんなことしない。」
瞬の手は優しく僕の頭を撫でた。
「………ほんと?」
抱き締められたまま、僕が聞く。
「ああ………。」
瞬はさっきより強く強く、僕を抱きしめた。