第2章 First
「朱音ちゃん?」
「あ、秋ちゃん!」
声をかけてきたのは、同じくマネージャーの木野秋である。すでに仕事が終わっているのか、暖かそうなダッフルコートにマフラーまで巻いて、帰り支度を済ませた彼女が、そこにはいた。
「お疲れ様。あと、何が残ってる? 手伝うわよ」
「お疲れ様! んーん、特に何もないよ、今終わったところ」
「そう、それならよかった。ところで、大丈夫? さっき、結構大きな声が聞こえたけど……」
秋は、ベンチに自らの鞄を置きながら問いかけてくる。ちなみに、仕事が終わり次第帰る予定であったため、朱音の荷物もそのベンチの上にすでに持ってきてあった。秋が、朱音の荷物の隣に鞄を置くと、朱音はベンチの上にたたんであったダッフルコートを羽織った。12月の半ばともなれば、日が落ちると気温は更に下がる。コートを羽織っては、秋と並んで談笑を始めた。
「あー、いや、何にもないよ、うん」
「そう?」
「……そう」
「……ふふ、うそ。吹雪君のことでしょう?」
「え」
「顔に書いてあるもの、分かるわよ」
そんなにわかりやすいのか、と軽くショックを受けながらも、秋ならば仕方ないのかもしれない、と思う朱音であった。秋もまた、恋人とは遠距離恋愛にあり、しかも相手は、アメリカにいるのだ。
「秋ちゃんには隠し事できないなぁ……うん、そう。早く、24日にならないかなって思ってね……」
「北海道、行くんだっけ?」
「うん。やっぱり、クリスマスくらい、吹雪くんに会いたいから」
「そうよねぇ……私も行っちゃいたいなぁ……一之瀬くんに会いに……」
同じ境遇の者同士、感じること、思うことは似ている。ふたりは度々こうして、お互いの近況報告や予定などについて話す仲であった。