第3章 使者の娘
「なっ…え…⁉︎」
ノインは驚愕して目を見開く…その大きさは、クルツの正体が王子様であると知った時と、同程度であった。
ここにクルツ王子殿下は居ますか、と少女はノインに訊いたのだ。
つまり、クルツが王宮を出た事、この村を訪ねた事、ノインの家に招かれた事…それらを知っている。
回状が出ている為、一つ目は知られていても不思議に思わないが…二つ目と三つ目は、何故知られているのか分からない。
「クルツ王子殿下に会わせて下さい」
少女の目は、クルツの存在を確信していると…そう物語っていた。
「な、何を言ってるんですか…?」
それでもノインは、しらを切った。自分の口からバラすわけにはいかないからだ。
「王子って……王族が、こんな平凡な村に居るわけないじゃないですか」
「……本当に居ないんですか?」
「居ませんよ」
否定を続けるノインに、少女は眉根を寄せ、訝しげな顔をする。
ノインは、少女からは見えない位置で、剣の柄に手を掛けた。
女性に怪我をさせるわけにはいかないが、もし無理矢理入ろうとするなら、脅かしてでも止めなければならない…
「…分かりました」
(ホッ)
杞憂だったとノインは安堵する。
少女はそんな彼を見つめたまま、言葉を続けた。
「この村にも回状が来ているなら、貴方も知ってますよね。クルツ王子殿下は、蛮族の王を討つ為に単身王都を出たと」
「それは…知ってます…けど」
ノインの言葉を聞いて、少女は踵を返した。
「王子殿下がここに居ないなら、きっと蛮族の元に居るのでしょう」
「え⁉︎」
歩き出す少女、その背中をノインは驚愕の表情で見た。
「失礼しました。…蛮族の集落に行って、探す事にします」
「まっ、待って下さい‼︎」
ノインは慌てて呼び止める。
少女は歩を止めた…ノインは気付いていない。
少女の口元に、緩やかな弧が描かれていることに。