第7章 summer memory②
「はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・」
荒い呼吸を繰り返す私の前髪を、及川さんが梳いた。
とても、優しい手つきで・・・
「りお、俺、酷いやつなんだよ・・・」
「・・・え?」
毛布が、私の体を包む。
それを掛けてくれた及川さんはふらりと立ち上がった。
「だから、さ・・・。これ以上、俺に踏み込まない方がいい。次はもう、俺・・・こんな程度じゃ、済まなくなる」
薄暗い部屋の中で、及川さんの口端が上がった。
きっと、きっと・・・
哀しい目をして、笑ってるんだ。
「及川、さん・・・?」
「ごめんね、りお・・・。もう俺に、関わらないで・・・」
及川さんはそう言って私を残し、部屋をあとにした・・・
再び玄関の扉が閉まる音が聞こえる。
私は、追いかけることが出来なかった。
さっき、一瞬だけ見えた及川さんの顔を見たら、
何も・・・もう言えなかった。
いつもは余裕の笑みを浮かべている彼が、
へらへらと笑っている彼が見せた哀しい顔。
そんな顔をする理由が、私には分からなくて・・・
ここ最近、彼との距離が近づいていたと思っていた。
でも・・・っ!
「近づいてなんか、無かった・・・っ!!」
何1つ、私は彼の心に触れられていなくて、遠くて・・・
それが悲しくて涙が溢れ出る。
「ごめん、っなさい・・・!」
彼の包んでくれた毛布を握りしめ、私は声を殺して泣いたーーー・・・