第1章 spring memory①
リンクするように私は一歩後ずさる。するとまた一歩、トオルさんが私に近づいてくる。そして。私を逃がさないと言うように、私の背後の扉へ、長い腕を伸ばす。
「え・・・」
パタンと扉が閉まり、私はそこへ背中をピタリと付けた。まるで、彼に追いつめられるような絵柄になってしまった。
「えっと・・・」
急な展開に頭がついて行かない私を、からかうような瞳が射抜く。
けれど、瞳の色が、どこかさっきと違う気がした。
「何かイイね、キミ」
長い指が私の顎を掴み、くいっと視線を合わさせられる。
そして、もう片方の手でぐいっと腕を掴まれると、そのまま引き寄せられた。
「んぅっ!?」
唇に柔らかい感触。そして視界には、長い彼の睫毛が・・・
え、え・・・!?
(キス・・・されてる・・・!?)
突然すぎるキスに、頭がついて行かない。そんな私を楽しむように、彼の唇は角度を変えて私の唇を奪う。チュッと音を立てた唇が離れると、今度はもっと強引に唇が重なる。
「ふっ・・・ぁ・・・」
まるで奪うように、彼の舌が口内に忍び込んで、私の舌を絡めとる。ガクガクと膝が震え、崩れそうになるのをいつの間にか腰に回されていた逞しい腕が軽々と支える。
宴会で盛り上がるどこかの部屋のざわつきすらもかき消すような淫らな水音が部屋いっぱいに響く。
暫く彼の巧みなキスに翻弄されたあと、満足したように、彼は唇を離した。ペロリと潤んだ唇を舐めたあと、妖艶な笑みを浮かべて私を見た。
「あーあ、真っ赤ですーげーやらしい顔になってる」
ぎゅうっと私を抱きしめ、耳元で続きの言葉を紡ぐ。
「ね、その顔、もっと見てみたいんだけど・・・いい?」
囁くような、胸をくすぐるような甘い声と言葉・・・・・・
「いい・・・」
ふっと彼が笑うのが分かった。
「わけないでしょ、この変態ーっ!!!」
ぐいっと彼の髪の毛を引っ張り、私の体から引き離す。
「いでででっ!!」
突然のことに顔を歪める変態男に、私は容赦なく・・・
パーーーンッ
平手打ちをかましたのだったーーー・・・