第1章 spring memory①
ーーー・・・
「涼しい〜・・・」
部屋の外に出てみると、廊下はひんやりと心地よかった。あんな人数がいたんだもの、熱がこもるのは当たり前だった。
パタパタと、火照った頬を仰ぎながらお手洗いに向かう。鏡を覗くと、良かった、化粧崩れしてない。
私は用を足し、ハンカチで手を拭きつつ、やはりファンデーションだけは手直ししておこうと思って再び鏡に向き直った。
(よしっ、ばっちり!)
そして、また騒がしい部屋の中へ戻ろうと、お手洗いを出た。
「あ〜、いたいた、ね、キミ〜」
部屋へ向かう途中、ふいに横から声をかけられた。
「はい?」
声のした方を向くと、先程のイケメンの男性が、空き部屋のソファーに腰を下ろしてこちらにヒラヒラと手を振っていた。
えーと、確か・・・
「トオルさん、・・・でしたっけ?」
「そうそう!もう俺の名前覚えてくれたんだ、ウレシーね!」
爽やかな笑みを浮かべているトオルさんの手が、ちょいちょい、と私の事を呼ぶみたいに手招きする。
(・・・?)
誘われるようにゆっくりと空き部屋の中へと足を踏み入れ彼に近付く。
(わ、私なんかがこんなイケメンに近づいていいんだろうか・・・)
バレー選手って事は、ファンとかいるのかな?殺されないかな、私・・・
そう思ってしまいそうなくらい距離を縮めてしまった私を、綺麗な瞳が見上げる。
(顔に穴あきそう・・・)
そんな事を思っていると、彼は口を開いた。
「さっきの歌、良かったよ、可愛かった」
形の良い唇から発せられた言葉は、何とも唐突な甘い言葉。
「は・・・はい・・・!?」
可愛いって・・・?ちょ、え、え!?
全力でWOW WOW言ってただけなんですけど!?
酔いが冷めてきたというのに再び顔に熱が集中する。きっとこの人から見た私の顔は、ゆでダコみたいになってるに違いない。
それを笑うように、クスリと微笑むトオルさん。
「なに、照れてんの?可愛いなぁ」
また可愛い!?もうやめて〜!
そう思っていた矢先、すくっとソファーから立ち上がったトオルさん。近くで見るとやはり、大きい。私はぐっと彼を見上げる形になる。
するとトオルさんは一歩私に近づいた。
「え・・・?」