第7章 summer memory②
ーーー・・・
「やだっ!ね、ほんともう、・・・なに、きゃっ!」
及川さんは自分の部屋の戸を開き、敷いてあった布団に私の体を投げ飛ばした。柔らかな布団のお陰で痛みはなかったけれど、体を起こそうとする私の上に、彼が組み敷いた。
両腕を布団に縫い止められ、脚は、及川さんは両足の間にある。完全に身動きが取れない状態だった。
「なんなの、本当に!冗談なら笑えないんだけど!」
昨日の女の人といい、その人の渡した手紙読むなり家を飛び出して、こんなに濡れて帰ってきたと思ったら人のこと押し倒して・・・
状況についていけない私は叫ぶように言った。
「冗談でも、何でもないよ」
暗がりで、廊下だけが灯る電気では、及川さんの顔ははっきりとは見えない。
ただ、声だけは、彼の髪の毛から私の胸元に滴り落ちる雫のように冷えきっていて・・・
「!?」
及川さんの唇が、突然私のそれと重なった。
柔らかいけど、氷のように冷めきった唇に、私はビクリと肩を震わせる。
「んんっ・・・ゃっ・・・!」
首を横に振って、及川さんから逃れようとするけど、彼は器用に私の手を頭の上で片手で纏めて、空いたもう片方の手で私の顎を固定した。
(やだ、やだ、やだぁ!)
繰り返されるキスに酸素を求めて口を開いた瞬間、ぬるりとした舌が口の中に入ってきた。
「ん、んっぁ・・・!」
歯列をなぞり、上顎をなぞり、そして私の舌を絡めとっていく。ぞくぞくと腰あたりが痺れるような感覚になる。
「ふ・・・ぁ、もぅ、・・・んぁっ」
彼のキスに翻弄されて、苦しくて、熱くて、意識がぼんやりと霞みそうになった時、私は我に返った。そして・・・
ガリッ
「っ!!」
及川さんの唇がやっと離れた。
一瞬動きを止めた及川さんの体の下から、急いで私は上半身を起こす。
及川さんは、私が噛んだ唇の端っこを手の甲で拭った。
血が・・・出たかな・・・
「いい加減にしてよ!こんな・・・っ、こんなの酷いよ!」
恐怖に、涙が出そうで声が震える。
今、目の前にいるのは、本当に及川さんなんだろうか?
私の作ったご飯を美味しいって食べてくれる、彼なんだろうか・・・