第7章 summer memory②
ーーー・・・
玄関の鍵が開いたのは、それからまた1時間ほど経った8時頃・・・
ガチャガチャと解錠する音に、私は弾かれたようにリビングから飛び出した。玄関へと駆けていく。
胸の前で手を組んで、どうか、これから入ってくる人が彼であって欲しいと願った。ゆっくりと扉が開き・・・・・・
「おかえり、なさい・・・」
見覚えのある焦げ茶色の頭が目に入る。俯いていて、顔は見えないけれど、及川さんの姿を確認すると、ひとつ、肩の力が抜けた。
(ちゃんと、帰ってきた・・・)
あの様子だと・・・帰ってこないんじゃないかなとすら、思ったから。でも・・・
「びしょびしょじゃない!傘、ささなかったの!?」
この土砂降りの中、傘もささずにいたのか、及川さんは頭からつま先まで水を被ったようにずぶ濡れだった。
「いま、タオル持ってくるから、待ってて!」
パタパタとスリッパの音を鳴らして脱衣所から大きめのタオルを持ってくる。そして、髪の毛から水の滴る及川さんの頭にタオルをかけてあげる。
尚も俯いたままで、一言も話さない及川さんに、私は話しかける。
「シチューあるから、それ、温めて食べよう?寒いし、お風呂先に入った方がいいかも・・・」
「・・・・・・・・・」
話しかけても、何の返答もない。
「ここに立ってても風邪ひくだけだから、中、入ろう?」
ピタリとも動かない及川さんを促そうと右腕に触れた時、伸ばした手は、彼のもう片方の手に掴まれた。
「なんで・・・」
「え・・・?」
微かに聞こえた、彼の声。
「なんで俺に・・・構うんだよ・・・っ」
それは、怒りと苛立ちと、どこか悲しみを含んだような声・・・
「きゃっ!・・・や!」
及川さんは私の腕を掴んだまま、靴を脱ぎ捨て家の中へ入る。ずんずんと足早に歩いていく及川さんと、引きずられるように連れていかれる私。
掴まれた手首が痛い。そして、冷たいーーー・・・