第7章 summer memory②
ーーー・・・
案の定、及川さんは私の部屋にいた。
・・・例の手紙を手に。
「及川、さん・・・?」
こちらに背を向けて、手紙の中身を開けて見ている及川さんからの反応は無い。ただ、真剣に中の便箋を読んでいる。
中身はたった1枚の紙だった。そこに書かれている文章は、こちらからだとなんて書いてあるのかはわからない。
「及川さん・・・・・だいじょ「りお」
今まで聞いたことのない、低い声。
及川さんは私を見ずに、言った。
「この手紙、誰から貰ったの・・・?」
「昨日、家の前にいた・・・黒髪の女の人、だけど」
やだ、顔は見えないのに・・・
今の及川さんは、きっと、
私の知らない顔をしている。
「ちっ!」
及川さんは舌打ちをすると手紙を握りしめて立ち上がった。
そして、私には一瞥もせずに私の横を過ぎていった。
「っ、及川さん!」
ずんずんと一階へ降りていき、家の鍵と、スマホと財布だけを持って、玄関へと彼は行く。
「及川さん、待って!」
玄関で、彼の前に立ちふさがる。
(行く気だ・・・あの女の人の所へ・・・)
考えなくてもわかる。そして、その人が及川さんにとって大きな存在だということは、目を見ればすぐ分かった。
「どきなよ、りお・・・」
私を見下ろす及川さんの目は、酷く冷たくて・・・こんな目、見たことなくて足がすくむ。怖い・・・
「あの手紙、あの女の人が書いたんでしょう?!なんて・・・」
言い終わる前に、及川さんがぐっと私の肩を掴む。
その力強さに驚き、改めて、彼が男だと思い知らされる。
そして私を押しのけたあと、彼は私を見ずに言った・・・・・・
「お前には、関係ないから」
それは、彼からの"拒絶"だった・・・
これ以上、踏み込んでくるなというサイン・・・
私はその言葉に、何も返せず、何もできず、
ただ横を過ぎ去っていく彼の気配を・・・
遠くなるまで感じていた・・・ーーー