第6章 summer memory①
及川さんは恐怖から解放されて脱力する。
「だはぁー、何が子供向けだよ!馬鹿みたいに怖いじゃん!」
肩で息をしながら、及川さんはスタッフさんに抗議した。
いや、多分子供向けだったよ?最初の方は私も雰囲気にビクついたけど、及川さん見てると終始冷静でいられた。
「いやぁお疲れ様です!お兄さんの悲鳴、良かったです!そんなに怖いの逆に見てみたーいって、ちびっ子たちが今結構入っていったんですよ〜。いい宣伝になったし本当、ありがとうございました!」
死装束のスタッフさんは、青白いメイクをした顔を破顔させて笑った。その顔がまたしても怖かったのか、私の手を握る力が強まった。
そう、まだ繋いでるの、この人。繋いでること、気づいてないんだろうなぁ。
「最近蒸し暑かったし、いいリフレッシュになったね」
「ほんと、お前馬鹿じゃないの!?2度と入んないかんねっ」
「あ、及川さん、後ろに髪の毛の長い女の人が・・・」
「ぎゃーっ!もうほんとやだ!!」
及川さんは後から突き飛ばされたようにモール内を走り出した。私の手をきつく握ったまま・・・
私はいつまでも、笑いが止まらなかった。
もうだめ、だめだよ、我慢出来ない。
自分の気持ちに嘘がつけない。
この人と一緒にいると、こんなに楽しい。
この気持ちに、名前を付けずには居られなかった・・・
(及川さん・・・)
意地悪、わがまま、ナルシスト・・・
だけどバレーが上手で、ご飯を美味しそうに食べて、涙脆くて、お化けが苦手でお酒が入ると甘えん坊になる・・・
これ以上一緒にいると、どんどん及川さんの魅力を知ってしまう。
このままじゃ、
このままじゃ、きっと好きになる・・・隠すことなんて、出来なくなりそうだ。
全速力で駆ける及川さんと、繋がれた手を見ながら、
私は密かに・・・彼に恋をしていた。