第6章 summer memory①
黒い建物の壁にはベタベタと、赤い手形がついており、看板には不気味な文字で・・・
「お化け屋敷って書いてあるね・・・」
期間限定のお化け屋敷だった。もうすぐ夏ですもんね、ひんやりしたい季節ですもんね。
しかしこんなに大きな建物なのに、お客さんはみんな怖がって、入っている人は少ないな。
「あ、そこのカップルさん、一回どうですか?」
ちょいちょい、と死装束の衣装を着たスタッフらしき人に声をかけられた。
カ、カップルじゃないんだけど・・・っ
「え、私たちですか?」
「そうです!子供向けだしそんなに怖い仕掛けとかないんですけど、みんな外装に怖がっちゃって中々入ってくれないんですよ〜」
スタッフさんは困ったように頭をかいている。
「ほんとに怖くないんで!いっちょ宣伝したいんで、無料でいいんで、入ってくれませんか?」
無料!しかも、面白そう!
私はウキウキして、入ろう?と言う意味も込めて及川さんを振り返った。
え。
「これ・・・入んの・・・?」
及川さんの顔は明らかに青ざめている。なんならさっき買ったテーピングの袋も落としそう。
「え?もしかして及川さんこわ「怖くなんかないしっ!ぜーんぜん平気だね!!」
及川さんは胸を大きく張って見せた。上半身はそうでも、下半身が小鹿のように震えてる。わかりやすいなぁ〜。
「え、じゃあ入ってくれるの?無理してない?」
「全然入るし、あったり前じゃんっ!」
「本当ですか!?ありがとうございます〜っ」
スタッフさんが及川さんに握手を求める。及川さんは大袈裟かって思うくらいに肩をビクつかせながら、その握手を受ける。
なんか、可愛い・・・
「何ぼさっとしてんのさ!早く行かないと置いてくよ!」
いつも以上に強気な声に私は吹き出さないようにして、彼と一緒にお化け屋敷の中へと入っていった・・・。