第6章 summer memory①
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で。ちゃんと30分以内に車は映画館に到着した。
目的の映画も、レイトショーだったから席は充分に空いていて私達はスクリーンの真ん中、一番奥の席に座った。
見た映画の内容も、笑いあり涙ありのまぁ、言ってみたら王道の愛犬の物語だった。原作の小説も読んでいた私にとって、このキャラクターはこの俳優が演じるんだ!こんな感じに話すんだ!わんこ。可愛いなぁと原作ファンならではのドキドキ感も味わえたし良かった。
エンドロールも見終わって、再び会場が明るくなる頃には、
まぁ体は筋肉痛だったけど、心は結構満足感に溢れていた。
(良かったなぁ、好きなシーンとかもぽんぽん出てきて・・・。ラストの主人公と飼い犬が再会するシーンなんて、分かっててもちょっとうるっときちゃったなぁ・・・)
彼・・・及川さんはどんな風に感じたんだろう・・・と鞄を持ちながら、ふと隣に目をやるとぎょっとした。
「えぇっ!?」
もう涙ちょちょぎれってこのことを言うんだ!っていう表現がぴったりなくらい、及川さんは号泣していた。
目と鼻を真っ赤に染めて、涙がまだあとからあとから、止まらない。
「ちょっ、確かにいい話だったけど、そんなに!?」
慌ててハンカチを差し出し、その間にポケットティッシュも鞄から探す。
他のお客さんが帰路につく中、私は泣き続ける及川さんを前に慌てふためいていた。
「俺、犬系駄目なんだよねぇ〜」
と、ティッシュで鼻をかみながら話す及川さん。
「なんだよ、あの犬、あかねちゃんに懐きすぎでしょ!可愛すぎかよ、もう〜っ」
あかねちゃんとは、物語の主人公だ。ちなみに犬の名前はミミ。
「もうさ、あのミミとあかねちゃんが離れ離れになって島に置き去りにされるでしょ?あそこのミミの顔みたら、俺もう耐えらんなくて・・・っ」
つまり、及川さんは主人公のあかねちゃんに感情移入しまくってこの仕上がりになってしまったそうで。
私も泣きそうになったけど・・・こんなに泣いている人を見ると自分の涙はどこかへ引っ込んでしまった。
むしろ感受性豊かなこの及川さんを見て、吹き出してしまいそうになるくらい。
「でも、泣きすぎだよ〜」
もうだめ、堪えきれずに笑っちゃった。
普段の彼とのギャップがありすぎて。
また、彼の新しい一面を知った日だった・・・ーーー