第5章 spring memory⑤
ゴクッとのどごしの良さを味わう。
「ぷはぁ〜!やっぱり充実した1日の終わりのビールはいいね!」
飲んで率直な感想を声に出し、その声は静かな夜の空気に吸い込まれていく。片膝をついた及川さんはふっと笑った。
「酔っても酒のこと言うくらい好きだもんね」
「え?なに?」
「なにも・・・・・・。ほーんと、能天気だよねって言っただけ」
「む、たくさん笑って楽しい時間過ごしてストレスを溜めないって大切なんだからね?」
「楽しい時間・・・、今日、楽しかった?」
「・・・?うん、勿論っ!」
初めてのバレー観戦、高校生のプレーに歳を忘れて盛り上がったり、
及川さんの幼馴染の岩泉さんを紹介してもらって、普段見えない及川さんの一面も見れたり、
二人で叔母さんのためにご飯作ったり・・・
「本当楽しかった、ありがとう」
と、素直にお礼を言っている自分がいた。すると、及川さんは少しだけ口端を尖らせて庭の方を向いた。
「何でりおから言うのさ〜」
「・・・え?」
及川さんは、様子を伺うような瞳で私を見た。
「私から?えっ?」
「だからぁ・・・」
もう、と缶の中のアルコールを一口喉に流したあと、及川さんは口をもごもごと動かした。どうしたんだろう、いつもの、俺様的な彼と正反対・・・。
「こっちこそ、ありがとうって言おうとしたんだよって」
顔が赤く見えたのは、きっとお酒のせいじゃないと思った。だって、及川さんの目が、真っ直ぐに私を見据えていたから・・・
(いつも意地悪で、わがままで、ナルシストなのに・・・)
こんなこと、言う人だっけ・・・?
・・・ありがとうって、言ってるんだよね?
なんだか、一番言わなさそうな台詞なのに・・・なんて、少し感動していると、続けて及川さんは口を開いた。
「・・・それと、ごめん。初めて会った時にしたこと・・・」
口にしたことは、初めてカラオケで会った、そしてそこでキスをされた・・・私にとっての彼の第一印象を最悪なものにしたことを言ってるんだろう・・・そのことだった。
悪いと・・・思っていたんだ。
「ずっと、言えてなかったから」
彼の性格からして、
今まで謝るタイミングを待っていたんだろうか・・・ーーー