第5章 spring memory⑤
「ひっさしぶり岩ちゃんー!」
「及川、てめーくっつくな、暑苦しい!」
抱きつこうとした及川さんの顔を容赦なく突っぱねて、そのコーチの人は制止した。
「ぐふっ」
マヌケな声を漏らして強制的に止まる及川さん。
「っとにもー、岩ちゃんたら久しぶりの俺との再会に照れなくてもいいって」
「照れてねぇ、つか久しぶりとか言いつつ家も変わってねぇんだしちょくちょく会ってるじゃねぇか。嫌になるくらい」
「酷いな岩ちゃん!そんなだから1年くらい彼女いないんだよ・・・って痛!」
「今のはお前が悪い。殴られる前に謝れ」
「もう殴ってるよぉ」
岩ちゃんと呼ばれる人は、流石及川さんの幼馴染とだけあって遠慮ない言葉を及川さんに浴びせていて、それに反応する及川さんが新鮮だった。
「ふふふっ」
「ん?この子誰だ?」
「!」
は、やばい!つい自然と笑ってしまった!私の存在に気づかれた!
きりりとした瞳が私を射抜くように見下ろす。
「あ、あの・・・私」
「俺の従姉妹のりお。就職先の会社がうちで、今、及川家に居候してんの」
及川さんが殴られた頭を抑えながら話してくれた。
「初めまして、北村りおと言います。よろしくお願いします」
見た目の怖い人には礼儀正しく。私は岩ちゃんと呼ばれる人に深く頭を下げた。
「俺は岩泉一だ。今は青葉城西高校のコーチをしてる。で、一応、このクソ川のことは小さい頃から知ってる」
「く、クソ川ですか!?」
「そーだよ、岩ちゃん俺に対して酷いんだから。ま、愛情の裏返しだって知ってるけどね・・・ってわかったから!もう叩かなくていいから!」
なんか凄い、及川さんの扱いに慣れてる感じが。
なんかナルシストで意地悪な及川さんが逆にいじめられてると、少しすっきりとした気持ちになってる自分がいる・・・
「何ちょっと晴れやかな顔してんの、りお?」
「いや、なんか及川さんがそんな弄られてるの新鮮だから・・・」
「何、お前も弄られたい?欲しがりだなー」
「誰もそんなこと言ってないし、ちょっと、無闇に近づかないでよねっ」
「なーにいきなり俺のことバイ菌みたいな目で見てんだよ!」
いつものように言い合っていると、岩泉さんが私を見ていることに気づいたら。