第5章 spring memory⑤
試合は、時間を忘れるくらいにあっという間に過ぎた。それはあまりにも私が応援に夢中になりすぎたからだ。お陰で使っていたメガホンの形が少し変形している。
「りおってスポーツ観戦とか好きなんだね」
私の持っているメガホンを見て、及川さんは呟いた。
だって、本当に面白い試合だったから。高校生らしい、最後までボールを落とさないよう徹するフライングレシーブとか、ブロックとか、キレキレなスパイクとか。初めて生で見る試合に興奮は冷めやまなかった。それに、勝ったから余計にテンション上がってるんだろうな私。
「うん、初めて見たけど、好きみたい!ごめんね、おっきい声で騒いじゃって」
気づいたら応援の子達と一緒になって声出して応援してた。それくらい、惹き付けられるバレーだった。
及川さんはふっと微笑むと、
「全然、退屈しないで済んだならよかった」
と言った。
「退屈なんて全然しなかったよ」
ありがとう、と笑うと及川さんは面食らった顔をした。
そして、ふっと視線を逸らしてしまった。あれ?どうしたんだろう。
「そうだ、青城のコーチ、俺の幼馴染なんだよね。話に行くけど行く?」
「え、う、うん。・・・他に居るとこないし」
試合は全部終わってしまったし、及川さんについて行くしかなかった。
でも、上から見てたけど、コーチってあの監督の隣に座ってた厳つい顔の人だよね?・・・なんだかびびる。
目付きが少し鋭くて、でも、ボール出しとかは凄く上手だったなぁ。あの人が、幼馴染なんだ・・・。
国見くんは、青城の監督さんと色々と仕事上の話をするみたいで別れたけれど、及川さんに連れられるまま私は1階の出入口までやってきた。
「いーわちゃーん!」
へ?いわちゃん?
及川さんはダッと靴を鳴らして目の前を駆け出した。その方角には・・・あ、さっきのコーチの人だ。その人が立っていた。