第5章 spring memory⑤
「昨日ぶりっ、国見ちゃん!」
「ですね。来てくれてありがとうございます。・・・北村さんの挙動不審具合、遠くから見ても分かったよ」
「えぇっ!?挙動不審!?」
きっと体育館やら、背の高い男子バレーの選手やら、及川さんがキャプテンだと言う話やらに驚きすぎていたんだろうな。
「確かに、今日凄いしか口にしてないもんねお前」
ぷっ、と意地悪そうに吹き出した及川さん。だって本当に凄いと思ったんだもん!
キッと及川さんを睨んでいそいそと国見くんの隣の空いた席へと座る。あーやっぱり頼れる同期であり上司。何か仕事では隣にいるのが当たり前だから安心するな。ホッコリ。
暫くすると、男の子が私と及川さん分のメガホンを渡してくれた。ふむふむ、これで応援するのねっ。
「お、国見さんの彼女っすか!」
「えぇっ!?」
国見くんのすぐ隣に立っていた男の子がそう訪ねてきた。
「まさか。違う違う、職場の人だよ」
手をやんわりと振って否定する国見くんに、今度は大口を開けて笑う及川さん。
「国見ちゃんの彼女とか・・・っ、もうお前どんだけ面白いの」
「確かに。北村さん、結構お笑いのセンスあるんじゃない?」
「私が言った訳じゃないし!」
何故かそう間違われ、顔を赤くする。その赤くなった顔を見せないように、メガホンで顔を隠す。
「安心しなよ、りお。国見ちゃんは美人がタイプだからお前には興味無・・・ぐふっ」
言い終わる前に及川さんのお腹に手刀を入れた。もう読めてる、次に何言うのかくらい。本当、失礼なやつ。私は気を取り直して前方の景色を見やる。
これから試合を始めるチームがコートの中で練習していて、ユニホームの背中には青葉城西と書かれてあった。
(これが青城なんだ・・・)
及川さんと、国見くんのいたチーム。このユニホームを着て、こんな広い体育館でバレーボールをして、今じゃプロ選手として活躍してる・・・
隣で同じようにコートの中の選手を見る及川さんは、どこか懐かしそうに目を細めていた。
「りお、バレーのルールは知ってる?」
「うん。テレビでやってるの見たことあるし、一応知ってるよ」
「そ。じゃあ説明はいらないね」
「うん、ありがとう」
一応気遣ってくれることに感謝して、私は、応援に専念する事にした。