第5章 spring memory⑤
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翌日、私は予定通り、及川さんと一緒に"青城"の試合を見にとある市民体育館へ出向いた。
今までスポーツの大会なんて見に行ったことなかったから、その外装にすらも感動した。そして、体育館に入った瞬間に香る独特な匂い(なんだろ、湿布みたいな)も堪能した。
「すごーい!なんて言うの?試合って感じ!」
言葉のボキャブラリーが少なくてうまく表現出来ないけれど、そんな私のことを及川さんはいつものように口端を釣り上げて笑った。
「そりゃ試合だかんねー」
「すごいね!こんな広い体育館で試合やってるんだ!」
未知の領域。まるで遊園地に来たようなうきうきした気持ちになる。
「そんな感動するなら、連れてきたかいがあるよ」
「母校の試合はどこで?いつから?」
「あっち、奥のコート。今公式練習入ってるから、そろそろじゃない。行こう」
及川さんのあとをはぐれないように着いていく。観客席は父兄やら選手やらで結構な人がいた。
及川さんはすたすたと歩き進め、やがて一番奥のコートの観客席まで到達した。すると、白と淡い緑色のジャージに身を包んだ男子校生集団が最前列に溜まっていた。
「及川さん!?ちわーっす!」
「ちわーっす!」
及川さんの姿を見るなり、高校生達は彼に向かって頭を下げて、体育会系独特の挨拶をした。
「やっほーお前ら、元気に青春してる?」
「うっす!及川さん、こちらどうぞ!!」
小柄な(まぁ私よりは断然大きい)子が、空いている席を指して案内してくれる。
「すごい、なんか及川さんが先輩に見える」
「先輩に見えるじゃなくて先輩だしっ。俺ここのキャプテンだったんだからね」
「キャプテン!?」
もう、すごいとしか今日は言えないな。ひょえ〜こんな大木みたいな集団をまとめてたんだ。
「こんなに意地悪でナルシストなのに?」
「ちょっとどういう意味それ」
いつもの言い合いが始まろうとした時、知っている人物が私たちの前に現れた。
「及川さん、北村さん、ちーす」
「国見くん!」
あ、今日は接待って言ってたからスーツだ。昨日ぶりの国見くんは他の高校生が持っているメガホンを渡されたのか片手に持って会釈していた。