第5章 spring memory⑤
ましてや、あんたみたいなイケメンのハイスペックな彼氏からのプレゼントなら、なんだって喜ぶだろう、世の女性は。
そんな愚問なことを聞く及川さんに、苛立ちすら覚え始めてきた。
すると及川さんの長い指が伸びてきて、私の顎に触れる。そして人差し指で持ち上げたかと思うと・・・
むぎゅっ
「っ!?」
そのまま片手で両頬を掴まれた。
な、何、痛いんですけど!
無理やりあげさせられた顔で、及川さんを見上げると、彼こそすっごく不機嫌そうに眉間に皺を寄せている。なに、こわ!
わたわたと暴れているが、その手は一向に離そうとしてくれない。
「お前さー?なーんか勘違いしてない?」
ずいっと及川さんの瞳に覗き込まれる。
ついつい、大人しくしてしまうくらいの剣幕。でも、私だって色々フラストレーション的なものが溜まってるんだっ。
私の頬を掴む彼の手を、両手で剥がして少し潤んだ瞳で彼を睨みつける。
「だからっ、自分の恋人から貰えるものなら、お花だろうがなんだろうが、嬉しいんじゃないのってこと!です!」
急に大きな声を出すものだから、及川さんは一瞬目を丸くした。けれど、途端に首を傾げ始めた。
「恋人?何言ってんの?」
「そ、そっちこそ当たり前なこと言わないでよ・・・っ」
「いやいや、何か勘違いしてると思ったら・・・りお、俺が彼女へのプレゼントで悩んでるって思ってるの?」
「・・・・・・・・・え?」
違うの?というように今度は私が首を傾げる。
一瞬の沈黙が舞い降りる。しかしそれを破ったのはまたしても及川さんで、ぷっと大きく吹き出した。
「ぶっははははっ!何勘違いしてんのかと思ったらっ。俺、彼女いないから」
それはそれは大口を開けて笑い出す及川さん。小刻みに肩が震えている。
「へ?いないの、彼女・・・」
「そ。俺がプレゼント渡したいのって、俺の母さんにだよ。もうすぐ誕生日だから」
「お、叔母さんの!?」
・・・・・・ああ。なんだ、それならお花屋さんにも行くよね。
自分のお母さんの世代が喜ぶものって難しいし、人に聞くよね。
叔母さんの・・・お誕生日のプレゼントか・・・
私は一気に恥ずかしくなって、両手で顔を隠してしまった。