第5章 spring memory⑤
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次に目を覚ましたのは、夕焼けのオレンジが部屋全体を染め出す頃だった。
私はむくっと起き上がり、ボサボサになった髪の毛を手櫛する。
寝たけど、まだ胸がもやもやしてる。つまり寝起きは悪くて、はぁーっと長いため息をついた時、コンコンと扉をノックする音がした。
「りお?帰ってきてんの?」
この声は・・・彼だ。
「・・・あ、うん」
意外と普通に返事ができて、驚いた。近くにあった手鏡で化粧崩れしてないかチェックして、扉を開ける。
扉の向こうの、夕陽に照らされ出した彼、及川さんと目が合う。
「おかえり・・・」
「ん、ただいま」
自室の前だけれどいつものように挨拶をするのが、少し不思議な感覚を覚えた。
「なんか、機嫌悪い?」
訝しむように及川さんは私をじろじろと見る。
何かこの人、勘が鋭い時あるよねぇ・・・けれど私は気づかれないように、
「や、寝起きだったから・・・」と言って流した。
そう、と呟く及川さん。それから、少しだけ、二人の間に沈黙が降りた。
何、何だろう・・・。もしかして、あの花屋で私のこと、気付いてたのかな?だとしたら、何て言われるんだろう・・・
遠くでは小さな子供たちがお喋りしながら去っていく声がする。
私は俯き、顔を隠しながら、彼の言葉を待った。
「あのさ」
彼の言葉に、ゆっくりと顔を上げる。
「・・・なに」
そう問いかけると、形の良い唇が開いては閉じて言葉をのむ。けれど次第に気恥しそうに後頭部を掻き出した。
「女の人ってさ、プレゼントって何あげたら喜ぶのか知ってる?」
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・・・・・・はい、ビンゴ。
彼女、確定です。
いや、別にいたっていいんだ。いたってどうってことない。
素晴らしいことじゃない。イケメンの遺伝子を別の人に分け与える相手がいるんだから・・・って私は何を言ってるんだろう。
兎に角、このモヤモヤが、事実を聞いて少しすぅっと引いていく感じがした。
私は、彼の顔が見れなくて・・・そっぽを向いて言った。
「・・・別に、好きな人がくれるものなら、何でも嬉しいんじゃないかな」
花でも、ピアスでもネックレスでも・・・ものはなんだっていいと思う。その人を想う気持ちがあれば・・・それが伝わるようなものなら。