第5章 spring memory⑤
だから、もっと素敵な人を見つけなくちゃな。
そう思いながら、もう帰ろうと鞄を持ち直した時、ふと、花の匂いがふわりと鼻をかすめた。
(いい匂い・・・)
モール内に入っていたのは、有名なチェーン店の花屋さんだ。
チューリップ、ラベンダー、アマリリスにネモフィラ、ナデシコ・・・春の可愛らしい花が所狭しと並んでいる。
部屋に飾っても可愛いなぁなんて上機嫌な上に女の子らしいことまで考えてみる・・・
他にどんな花があるのかな、と店内を見やった時、私は目を見はった。
ーーー・・・あれ?
見知った焦げ茶色が春の花たちの中で揺れている。
私のよく知っている彼は、小さな花屋の中に大きな体を屈めて真剣に花を見ている。
男の人が、そんなに真剣に花を選ぶ理由なんて・・・
私にだって、わかる・・・
なんだ、そう。
「・・・彼女、いるんじゃない」
私は逃げるように踵を返し、その場を後にしたーーー・・・