第4章 spring memory④
ふぅ・・・と息をつくと、その場から離れようとした。
「ん・・・りお・・・?」
不意に彼が私の名を呟く。うっすらと綺麗な瞳がこちらを向いている。
「どこ行くんだよ・・・」
「どこって部屋に帰るのよ」
「なんで」
「何でって、寝るからに決まって・・・「ここでいいでしょ」
言い終わる前には、私は彼の布団の中に引きずり込まれていた。
「きゃっ!」
熱を秘めた胸板が頬にあたる。逞しい腕ががっちりと私の体を固定すると、私は身動きが取れなくなってしまった。
やばいやばいやばい。襲われる・・・!
反射的に身を固めると、耳元に優しい声が届いた。
「今日は酔っ払ってない・・・?」
「え・・・?」
唯一動く首だけを動かして顔を上げると、至近距離に及川さんの整った顔があった。
「今日は・・・誰にもあんな顔見せてないよね・・・?」
「あんな顔って・・・?」
心当たりがなくて・・・きょとんとする私の頭を、何故か撫でる大きな手。心臓がうるさいくらい高鳴る。
なんで・・・なんでそんな優しい顔してるの・・・
「お前・・・酔ったらあんな顔するの、反則だよ・・・俺以外のヤツに見せないでよね・・・」
酔っているからなのか、及川さんの口からは普段口にしないような言葉がポロポロと出てくる。
こんな甘い言葉を、なんの色気もない従姉妹である私に言うわけない。
「わかったから、兎に角放してっ」
及川さんの胸板をぐっと押し返すけれど、びくともしない。
「ダメ・・・今日は、一緒に寝て・・・」
それは絶対やばい!
「それこそダメだってば!」
これ以上至近距離にいたら、私の心臓がもたないよ・・・!
ぶんぶんと首を振っていると、及川さんがより強く、私を抱きすくめた。そして耳元で絞るように言った・・・
「お願い・・・」
それは、何処か甘えるように、心を締め付けるような声色で・・・
「そばにいて欲しい・・・りお・・・」
何処か、消えてしまいそうな声色で言うものだから・・・
私は抵抗出来なくなってしまった。何だか、ほっとけなくて・・・
「・・・何もしないで寝る?」
そう尋ねると、コクコクと頷く及川さん。
私は少し考えたあと・・・全身に込めていた力を抜いた・・・
「わかった・・・」
そうしてくるりと彼に背中を向けて、丸くなる。