第4章 spring memory④
ーーー・・・
タクシーが及川家の前で停車する。
「及川さん、ほら、着きましたよ!」
背もたれに体をずっしりと預けていた及川さんの胸板を叩き起す。
「ん、わかったから・・・今財布出す・・・」
「今日は良いですよ!ほら、早く降りましょう!」
若干眠気眼で財布を出そうとする及川さんの手を掴み、グイグイと外へ連れ出す。
お金を払ってタクシーを見送る頃には、及川さんは私にもたれかかっている状態だった。
(重・・・)
一般男性よりも大きく、それでいて日頃から鍛えている体を支えるのは無理がある。とりあえず、家の中に入らないと!
なんだかさっきより酔いが回っている及川さんに肩を貸して引きずるように家の中へと入る。
「及川さんっ、家、着きましたよ!」
ひゃ〜叔母さん今日も夜勤なのねぇぇぇ・・・
半ば泣きそうになるけれど、誰もいないならやるしかない。
自分の鞄と、及川さんの鞄は玄関にほっぽり出した。
及川さんの靴を脱がせ、再び肩を貸す。
端正な顔が目の前にあることなんて気にもとめなかった。
「・・・部屋」
「部屋・・・?部屋行けますか?」
「ん・・・」
一瞬起きた及川さんと共に(寧ろもう荷物)階段を上がり及川さんの自室にたどり着く頃には、半分汗だくだった。
「つ、着きました、・・・っ部屋!」
「布団・・・」
畳の敷き詰められた和室の真ん中に、布団が敷きっぱなしになっている。何とかそこまで歩いていくと、半ば二人で倒れ込むような形になった。
「はぁ・・・っ・・・はぁ・・・」
こんな重労働したことないってくらい、呼吸が乱れてる私をよそに、及川さんは気持ちよさそうに寝ている。そんな彼の着ていたスーツの上着を強引にむしり取る。
(私、こないだここまで迷惑かけてないと思う!記憶はないけど!)
まぁ学生の頃だって、酔っ払いの介抱はしてあげていたし全然いいんだけどね。
上着をハンガーにかけ、先程国見くんから受け取った水のペットボトルを枕元に起き、眠りこける及川さんの体に布団をかけてあげた。
「ん・・・」
と、熱い体が身じろぐ。
焦げ茶色の前髪の奥に見えるのは長い睫毛。通った鼻筋、形の良い唇・・・ルックスだけ見たら、本当に美形なんだと思う。背も高いし、人気が出るのもわかる・・・
「黙ってたら・・・かっこいいのにね・・・」