第4章 spring memory④
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その後も、及川さんは私には水しか渡さなかった。私が飲まされそうになっても代わりに自分がお酒を飲んで、まるで私を本当に庇うようにしてくれた・・・
理由は分からないけれど、飲み会が終わる頃には及川さんは結構な量のお酒を飲んでいた・・・
「お、及川さん・・・大丈夫ですか?」
「俺?こんなの平気平気、明日練習無かったらもっと浴びたいくらいだよ」
そうしていつも通りにへらりと笑って返す及川さん。締めの一本締めのあと、次々とみんなが帰っていく中で、及川さんはまだ座ったまま。やっぱり、酔ってるよね・・・
「私、お水貰ってくるね」
彼の隣に付き添っていたけれど、流石に彼の状態がまずいかなと思って席を立つ。すると逞しい腕に、手を掴まれた。
「いい。大丈夫だから、帰るよ」
低い声で、呟くように言った。
「ん。」
もう片方の手を私に差し出す。起こせってこと・・・?
言われるまま、私は空いた方の手で及川さんの腕を掴み、立ち上がらせる。
体格の差で、ふらつきそうになったけど何とか立ち上がる及川さん。あ、意外としゃんと立ってる。
「及川さん、大丈夫ですか?」
「国見ちゃん、しーんぱいしーすーぎ!この通り、及川さんは大丈夫!」
お偉いさん方をお見送りしてきた国見くんが戻ってきて、肩を貸そうとするのを及川さんは両腕を腰に当てて健全だと言うことをアピールした。
「俺、送っていきますよ。酒飲んでないんで」
すぐ取ってきます、という国見くんの前に、手をひらひらとさせた及川さんは言った。
「本当大丈夫だよ。このあとも接待、あるんでしょ?俺のことは・・・」
ぐいっと、及川さんの力強い腕が私の肩を抱く。
「この可愛い従姉妹が面倒見てくれるからさ〜♪」
ええっ!と一瞬驚いたが、まぁ今日は何故か色々庇ってくれたし、これくらい大したことないと思って、とりあえず頷いた。
国見くんはコクコクと頷く私を見下ろすと、
「分かりました。じゃあ、明日昼前に一度連絡入れますね」
「もう心配し過ぎだってば〜。わかったよ、ちゃんとその頃には起きてるから」
そうして、私の肩を抱いたまま、その場をあとにする。
「北村さん、とりあえず、今日は及川さんの事よろしく」
「り、了解ですっ、お疲れ様」
このあとの大変さを、私はまだ知らなかった・・・ーーー