第33章 Lovers memory②
そして、自分から掴んだ彼の服の裾・・・
「ん・・・?」
及川さんはキョトンとして私を見下ろしてる。
私はハッとして、裾を掴む手を離した。
「・・・・・・どしたの?」
胸の前で手を引き寄せる。
まるで騒がしく鳴り響く鼓動を隠すように。
及川さんは目を細めて私の言葉を待ってる。
言わなきゃ、なにか・・・
「ご、ごめんね」
「ん?・・・何が?」
心当たりがある・・・
きっと、きっとこないだ私が拒絶したからだ。
「さ、触るのダメって言って・・・っ」
だから、怒ってるんだ・・・
勇気を振り絞って言葉を発した。
すると及川さんは相変わらず優しい笑顔を返してくれた。
「ん、全然いいよ。そういう気分な時もあるよね。俺こそごめんね」
そうは言ってくれるけど・・・
どうしても・・・彼の手は私の元には触れてくれない。
謝って欲しいわけじゃ、ないのに・・・。
その手に触れてほしい。
その腕に抱かれて・・・キスをしてほしいなんて私・・・
都合の良い、わがままだよね・・・。
「あ・・・うん・・・」
・・・だめだ。なんだか、胸が苦しい・・・。
きっと私、今泣きそうな顔してる。
こんな顔、及川さんに見られたくない・・・
「そ、それじゃ、ご飯美味しく頂くねっ、ありがとう・・・」
そう言うのが精一杯だった。
「おやすみ・・・」
足早にリビングへいこうとした。
「あーあ、ほんっと、お前ってさ・・・」
及川さんの、ため息交じりの声がした。
そして、次の瞬間、ふわりと後から逞しい腕が伸びてきて・・・
私を抱き寄せた。
「えっ・・・?」
驚いて私は振り向こうとした。でも、そのまま壁に押し付けられて身動きが取れなくなった。
ピタリと頬に壁が当たる。
ひんやりとした感触がして・・・その耳に、及川さんの吐息が触れる。
「もっと素直になりなよ・・・で、して欲しいことちゃんと俺に言いな」
「ぁ・・・・・・っ」
「お前から俺を・・・求めなよ」