第4章 spring memory④
噛み付くように睨むけれど、それすらももう視界に入れておらず、及川さんはさらりと部署をあとにした。
あとに残されたのは、私と国見くんだけ・・・
「え、えっと〜・・・」
「いとこ同士って言うのは本当みたいだね。及川さんが、女性相手に子どもっぽい所見せるの珍しいし」
「え?そうなの?」
こくんと、頷く国見くん。
「及川さん、あの通りの人だから、女の人の前だと必ずいい所見せたがるんだよね。でも君にはそんな素振りないし」
んーとつまり、間接的に私は女として見られてないのかな?
軽くディスられてる気もしなくはないけど、気にしないことにした。
「でも、北村さんはそのくらいの距離感でいいと思うよ」
「え?」
意味深な発言に首を傾げると、国見くんは私にしか聞こえない声で言った。
「及川さんには、惚れない方がいいよ・・・」
そしてこの話はこれまで、と言うように私の肩に手を置いた。
「その資料作成終わらせておいてね、四時にほかの部署に持っていくから」
そうして颯爽と自分のデスクに戻って行った国見くんの背中を呆然と見つめた。
なんだか前にも・・・同じことを言われた。
"ここで暮らす以上、俺のこと、好きになんないでね"
そうおどけて見せた、及川さん本人から言われた。
どうして改めて国見くんからも釘を刺す様に言われたんだろう・・・
私、そんなに惚れっぽい様に見られてるのかな・・・?
まぁ、意地悪でナルシストだし・・・好きになるなんて、ありえないから気にしないでおこう・・・。